本気ジム

ポスターは、ぱっと目にとまったのだが、このジムがどこにあるのか知らなかった。どうも、住宅街の一角のようだ。

しかも、プログラムにざっと目を通したら、どれもこれも、かなりストイックでハードだ。

目標を持ち、もくもくと自分と向き合う人に、プライベート・トレイナーがついてしっかり鍛えてくれるのであろう。私など、この手のジムのグループ・レッスンに入ったら、周囲の本気と熱気に負けて、真っ先に脱落するに違いない。

露出度の高くなる季節。胸だろうが背中だろうが、大きく開けたいところだが。

道は険しい。

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Brand:DAVID GYM
Advertising Agency:Publicis Zurich
Creative Director: Florian Beck
Art Director: Denis Schwarz/Florian Beck
Illustrator: Graphics: Thomas Berger
Photographer: Jonathan Heyer

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復活祭のうさぎたち

亜熱帯の国に住んでいた頃、ドイツ人の友人は、毎年イースターが近づくにつれ少しホームシックになっていた。

雪が溶けた庭の草むらに、カラフルなたまごやチョコレートなどの小さなプレゼントを隠し、それを探す遊びがどれほどエキサイティングなことか。家族や親戚が集う、その春の夜の食卓が、どれほど賑やであることか。彼女は、何度も繰り返し私に語った。

敬虔なカトリック教徒は、イースターの40日前、四旬節が始まる灰の水曜日から肉を断つ。
チューリッヒは、プロテスタントの街なので、あまり厳格な話は聞いたことがないが、しかし、祝祭のムードが日毎にあふれ、家々では、デコレーションに趣向を凝らす。

街には、至るところにうさぎが現れる。
まず、チョコレート屋さん。1836年創業の老舗シュプリュングリSprüngliや日本にも紹介されているトイシャTeuscherには、毎年同じ顔のうさぎが並ぶ。もう少し新しいお店になると、かなりモダン・アートがかかったうさぎがいる。定番のたまごを背負うもの、アコーディオンを弾くもの、そして踊るうさぎなど、絵本から跳び出してきたかのように、ずらっと並んでいて面白い。

ショーウィンドーも、うさぎ、うさぎ。
デパートのインテリア・コーナーでは、グリーン、ピンク、ゴールドなど色とりどりのうさぎやたまごを飾る鳥の巣、枝にぶら下げる、きれいなパターンや絵を描いたたまごのオーナメントも売っている。

極めつけは、本物のうさぎ。食品売り場のトレーに、毛を剥がされたつるつるの桃色の肌で、丸裸のチビうさぎが、手足をグイッと伸ばして、整然と横たわっている。今日もいるかな、と、眺めに行くことがあるが、私には買う勇気がない。

芽吹く木々の生命力と命のたまご。うさぎの多産と躍動感。喜びや希望。それらが、イエス・キリストの復活を祝う象徴となって、部屋を飾る。

4月2日は、グッド・フライデー、聖金曜日。私の信仰心は、ともかくとして。この地に習ってスズキやマスのような淡水魚を一匹、料理する。

その日から3日目。今年の復活祭、4月4日、日曜日。伝統的には、ラムか山羊。大家族ならば、子どものラムや子山羊を丸ごといただくそうだが、この習慣は、生け贄に捧げたものを分け合うということなのだろうか。うさぎは、優先順位からいうと、ラムの次ぐらいらしい。

庭に持ち出した、イースターのデコレーション。さっきまで、この白うさぎが家のなかにちょこんと座っていた。

春が来た。

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ノバルティスの喉薬 エスケープ・ザ・マウス・ホラーズ・キャンペーン

しばらく前のことだが、ある日、トラムを待っているとき、背中に奇妙な人影を感じた。
チューリッヒの街というのは、浮世離れしたモノや人に出会うことがしばしばあるので、まあ、その一種かと思い振り向かずにトラムに乗った。

帰り道。今度は、トラムの窓からその人々を見た。
喉が痛いらしい。

タミ―さんの喉は、蛇に閉めつけられて、声が出ない。彼女のお友達は、ガラガラのしわがれ声 Hoarse voice。喉の中で子馬が暴れているのが原因だ。もうひとりのお友達は、喉にカエルがいる Frog in his throat。やはり、辛い。

こんなとんでもない恐怖の苦痛をもたらす珍獣を退治するには、ただの喉飴ではダメ。
「メブカイン ソア スロート レムディ MEBUCAINE SORE THROAT REMEDY 」は、あなたの喉を平和にするために登場した。

よし。どんなにパワフルなドロップスであるか、効用効果の高さを強烈なビジュアルインパクトで訴求しよう。表現方法は、やっぱりシュールだ。
そう決定された方に、お会いしてみたい。

スイス、バーゼルにヘッド・クオーターを置く、国際企業、製薬・バイオテクノロジーの先端を走るノバルティス社のシリーズ広告。
キャンペーンタイトルは、エスケープ・ザ・マウス・ホラーズ Escape the Mouth Horror’s。

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Brand : MEBUCAINE SORE THROAT REMEDY
Advertising Agency: Saatchi & Saatchi, Cape Town / Geneva
Executive Creative Director: John Pallant
Creative Director: Anton Crone
Art Director: Larissa Elliott
Copywriter: Alice Gnodde
Illustrator: Am I Collective
Photographer: Jillian Lochner

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最後のフォンデュ

日本から友人が来たとき、話題になっていたあるスノッブなレストランへ案内した。いい席だったはずなのだが、困ったことに、彼女はとっても不満そう。

理由は、こうだ。「おいしいわよ、確かに。でも、これなら東京にも、パリにもある」。

実際、欧米のどこの都市のレストランへ行っても、アジアや和の素材なりテーストを取り入れたフュージョン系は、もう大分前から流行っている。サプライズが洗練されていればいいのだけれど、もとの力がよほど高くない限り、こなしきれていなかったり、それらが似たり寄ったりの料理に見えてしまうことがしばしばあるものだ。

食経験が、普通よりかなり深い彼女のこと。で、ご要望を再度聞き直すと、「牛を見たい。スイスでなければ食べることができないものを食べたい」。

翌日は、牛のいそうな草原まで車を飛ばし、牛と一緒に記念写真を撮り、牛小屋を改造したレストランへ行き、フォンデュや手作りソーセージをオーダー。空港では、フォンデュセットも求めたとのこと。ご満悦でご帰国いただいた。

フォンデュは、友達が集まったときなど、キッチンで過ごす時間が少ないのがいい。
言うなれば、日本の鍋物のスイス・バージョン。
スイス人でない私があっさり言うのも少し気が引けるが、誰でも気軽に、簡単に作れる。バリエーションも意外と多く、その家ならではのチーズの配合や、リカーの選び方があるのも面白い。

おうちフォンデュもいいのだけれど、おいしいレストランでいただくのも、季節の楽しみ。

フォンデュ専門のレストランが市内に何軒かあるが、「専門」の多くは、秋から冬のあいだしかお店をオープンしない。もちろん、ちょっと観光向けだったり、スイス料理全般をメニューにしている場合は、そこにフォンデュが含まれていることもあるが、むしろ例外。
「専門」に徹しているレストランは、季節が過ぎると閉めてしまう。

閉めてしまうどころか、跡形もなく消えてしまうフォンデュ・レストランがあり、数年前に突然現れて以来、ブレイクしている。

バラッカ ツェルマットBARACCA ZERMAT。

バーゼルとチューリッヒにお店があり、チューリッヒでは、空港の敷地内に、11月初めから3月の末まで、山小屋レストランを開業。週末ともなると、何週間も前から予約を入れないとなかなか席を取ることができない。

インテリアは、ツェルマット出身のアーティスト、ハインツ・ユレン Heinz Julen。
都市に出現した「幻の部屋」をコンセプトに、ハートウォーミングな1950年代にタイム・スリップする。

山小屋の周りには、薪が積み上げられ、雪がかぶっている。
牛の頭がついたドアを開けると、アンティークのスキー板が並ぶ。部屋の中央では、大きな暖炉が赤々と燃えている。壁には、野生の山羊、アルプス・アイべックのはく製、カモシカの角。ツェルマットの古いモノクロ写真。

この夜、私たちが注文したのは、モティエ・モティエという、ヴェシリンとコクのあるグリュイエールを半々に配合した、典型的なスイス・フォンデュ。
トマト・フォンデュも、シャンパンとトリュフのフォンデュも、スイスではお馴染のものだが、バラッカ・フォンデュとネーミングされたフルーツやベーコンが入ったオリジナルがあったので、これも試してみた。

ワインは、ツェルマットがあるバレー州のヨハニスべルグJohannisberg。フルーティでコクがあるがなめらかで、チーズとの相性がいい白だ。マッタ―・ホルンのラベルを付けて、テーブルワインとして置かれている。

フォンデュには、さくらんぼのスピリッツ、キルシュが使われることが多いが、これは、消化を助けるため。だから、白ワインではなく、キルシュを飲みながらいただくというのも、王道。身体に良いとされている。ただし、40度以上あるので、ご用心。

フォンデュは、とても素朴な料理だ。それが、使い込まれた古いお鍋で運ばれてくる。そっけないほどシンプルな食器。プラスチックのワイン・クーラー。

これら質素なファクターの融合が、都市に持ち込まれると、むしろ贅沢にもなり、お洒落にもなるという仕掛け。
文字通り、バラックのような古材の山小屋で、大きな火を囲みながらスローフードをいただく、何となくほっとする時間がうまくデザインされている。

パンを突き刺し、お鍋のなかでくるくるしながら、これが、この季節最後のフォンデュになるのだろうと思う。

例年になく、異常に寒く、雪が多かった長い冬が行こうとしている。この幻のレストランも、あと数週間で解体され、人々を温めたたくさんの物語とともに、どこかに消える。

北ヨーロッパも、もうすぐ、春。

https://baracca-zermatt.ch/

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スポーツ・サイコロジストという仕事

チューリッヒ、バンクーバーの時差は、―10時間。ここのところ、テレビのプログラムを眺めては、ディナーの時間が微妙に動くという変則的な事態が発生していた。

ところで、、ジャンプで突然才能が目覚め、「スキー界のハリーポッター」と呼ばれたスイスのシモン・アマンSimon Amannが、ダブル・ゴールドメダルを獲得した時、スイスのテレビ局は、彼のスポーツ・サイコロジストである、スイス・スポーツ・サイコロジー協会 Swiss Association for Sport Psychology (SASP)の会長 ハンスピーター・グベルマンHanspeter Gubelmannへ1時間のロングインタビューを特別枠で組んだ。

学問として、スポーツ心理学は、比較的まだ若い。

その黎明期は、19世紀後半のアメリカ。子どもたちを見ていて、グル―プで自転車をこいだ方がひとりの時よりも速いことに気づき、子どもを対象に研究を進めた人がいた。

20世紀に入ると、コールマン・グリフィス Coleman Grifithがイリノイ大学で、フットボールやバスケットボールの選手を研究し始め、知覚の変化、筋肉の緊張、リラクゼーションなど、彼らの反応に興味を持ち始めた。

その後も研究は続いたが、アカデミックな分野で学問として認められるようになったのは、1960年代から。まず、ローマに ザ・インターナショナル・ソサエティ・オブ・スポーツ・サイコロジー が設立され、この活動が徐々にヨーロッパへ広まって行く。ほぼ同じ時期にアメリカにも、いくつかのファウンデーションが誕生し、心理学のなかの新分野としての地位を確立していった。

やがて、近代スポーツの時代になると、1984年に国際オリンピックチームがスポーツ・サイコロジストを迎え入れたことに始まり、今では、あらゆるプロフェッショナルなスポーツ・チームでは、専任の心理学者であるスポーツ・サイコロジストがメンタル面をサポート。それが、世界の常識となっている。

スポーツ・サイコロジストの仕事とは何か。
ちょっと勘違いしそうだが、スポーツのテクニックが心理学によってアップするということではない。そして、「根性」とか「やる気」といった分かりやすいが化石化している精神論とは、全くの対極にあるということを、まずイメージしていただきたい。

生活環境、性格、人間関係、ストレスの種類、不安とその立ち向かい方。アスリートがかかえる様々に個人的なディメンションの問題を分析して、さらなる可能性を引き出すために問題を解決していこうとする、心理学の新しいフィールド。大きなコンペティションでも、自信を持ち、冷静に自己コントロールできるように、サポートしていく。

継続的に、アスリートのプライバシーと深く関わる仕事であるため、信頼関係の上に成立するパートナーシップがキーとなる。

そのスポーツ・サイコロジーの分野に、スイスで大きなプロジェクトが動いている。ここ3年でチューリッヒ近郊に大規模なスポーツセンターが建設されるという計画。3つのアイス・リンクやプール、サッカー・スタジアムなどの施設を備え、医師、フィジオセラピー、バイオメカニック、スポーツ・サイコロジーなどを併合した複合施設。ここにスポーツ・サイコロジー・センターが開設され、今後スイスにおける中核として活動していく。

上記、スイス・スポーツ・サイコロジー協会の副会長クリスティーナ・バルダサール・アケルマン Cristina Baldssarre Ackermann 氏にインタビューする機会を得た。撮影は、スイスのドイツ語新聞 NZZ (Neue Züricher Zeitung) や多くの雑誌で活躍する、なかなかイケメンのピルミン・ロスーリ Pirmin Rösli。

現在発売中の「プレシャス」3月号。巻頭グラビア、世界4都市のワーキング・ウーマンが登場する Life is so Preciousに掲載されている。

https://precious.jp/category/precious-magazine

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