観光を開発する、という仕事

©Josef Stuecker

あるパーティーで、スイス政府観光局の紳士をご紹介いただいた。多分私だけではないと思うが、初対面のスイス人とこういう場でのスモールトークの合間のフックに、「それで、いったいいくつの言葉をお話になりますか」、というソフトな質問がある。

「ハイジャーマン、スイスジャーマン。フランス語はもちろん。イタリア語も必要ですね。ロマンシュ語ですか?まあ、わかります。スイスは多言語ですし、それがスイスらしさでもあるのですから、一応、このくらいは・・・」と続く。お仕事柄とは言え、その数、確か7つぐらいだった。

チューリッヒ中央駅から朝TGVに乗れば、お昼にはパリに到着している。ちょっとアルザスのワイン農家へ。家具を買いにドイツ国境まで。バーゲンだからミラノへ行きましょうよ、という声がかかることも珍しくはない。

スイスのような多文化の観光立国で、お隣の国フランスが自国のプロモートをする。それは、日本に暮らす人々へのアプローチと、対極にあるのではないだろうか。

その先端に立つ女性にインタビューする機会があった。
フランス観光開発機構スイス支局の局長代理、ステファニー・ボルジュ・ミュラーStéphanie Borge Mueller さん。

ニューヨーク駐在を経てチューリッヒに移られている。N.Y. とスイスのマーケットの一番大きな違い、それは、「車で、電車で、自転車で。あるいは、歩いて。週末に気軽にフランスへ行く人がたくさんいること」とおっしゃる。

それでは、ここではないどこか、というのは、どっち方面にあるのだろう。

面白いことに、特にインセンティブをかけなくても、スイス人の人気を高いポイントでキープしているのは、南仏ではなく、タヒチでもなく、フランスの北、ブルターニュ地方なのだそうだ。

私が知っているのは、ナントNantes、レンヌRennesという地名と世界遺産のモン=サン=ミッシェルぐらいだったが、膨大な写真から、大西洋の海岸線にそそり立つ岩石や宇宙から降りて来たような謎の巨石、ケルトの哀愁がひたひたと流れる家並みに目をとめていくうちに、何となく「スイス人が好き」という理由がわかるような気がしてきた。

ホテルやレストランはもちろん、体験する何もかもが特別で一流という、非常にセグメントされたスイスの富裕層へ向けた企画を位置付けながら、マスに向けては、2月よりキャラクターが登場し、各媒体で連動。
初めてフランスを訪ねる人々へ、あるいは、今までとは違うフランスを楽しみたい人々へ。パーソナルな疑問に答えながら案内役となり、大都市や田舎の魅力はもとより、フランス本土での海のリゾートやウェルネス、領土内のニューカレドニア、カリブなどのトロピカルな旅まで紹介していく。

ユニークなのは、スイスの習慣をフランスでも楽しむことができるようにと、山歩きや自転車ツアーをフランスの田園や山々で楽しむという切り口。
ありそうでなかった企画かもしれないが、その開発のヒントは、スイスドイツ語圏におけるブルターニュの大人気の理由を分析していくと、するすると導き出されるようにも思う。

写真、ピルミン・ロスリーPirmin Rösli 。現在発売中の「プレシャス」3月号、巻頭グラビア、世界4都市のワーキング・ウーマンが登場するLife is so precious ! に掲載されている。

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