クリストファー・オールの幻想  ハウザー&ヴィルス

Silent One, 2010 Oil on linen 35.7 x 30.5 cm / 14 x 12 in   ©Hauser & Wirth.

チューリッヒの現代アートの拠点、レーヴェンブロイ・エリアにあるLöwenbrau-Areaライオンマークの古いビール工場は、現在、2年間の大がかりな再開発に入っている。

ここには、ミグロ美術館現代アートMigros Museum für Gegenwartskunstを始め、クンストハレ現代美術館 Kunsthalle Zürich、 エヴァ・プレゼンフーバー Eva Presenhuber, ハウザー&ヴィルスHauser & Wirth, ピーター・キルシュマンPeter Kilchmann, ボブ・ヴァン・オルソー Bob van Orsouw といった、世界の名立たるギャラリーが共存していたが、昨秋、そのままそっくり全ギャラリーが移動した。しばらくの間、クライス9地区 Kreis 9にある ヒューバーテュス エクスビションズ Hubertus Exhibitionsで活動していく。

東京であれば、湾岸あたりへ行く感じ。夕暮れて、人影も少しまばらな方向へ向かう。あまり馴染みのない場所だったのでトラムを間違えてしまったが、友人が携帯で誘導してくれ無事到着。

この夜は、ミグロ美術館のオープニング・パーティー。すでに大分前に始まっていたので、外に出てくる人もいる。ビルの入り口には、美大生風の人々が集まり、冷たい風にあたりながら煙草をくゆらせている。

階段を上ると、右がミグロ美術館現代アート。左手に2つのギャラリーが並ぶ。

荒木経惟の新作を展示する、ボブ・ヴァン・オルソー Bob van Orsouw。流石に、いいコレクションを持っている。その隣りがハウザー&ヴィルスHauser & Wirth 、と続き、アート界のトップを切る超一流の贅沢さだ。
以前からオープニングの日は、他のギャラリーも観ることができたが、このビルは、各画廊がドアを開け放つとフロアが一体化する印象があって面白い。

不思議な絵を見た。
エントランスから、おいでおいでと、妙な光が誘いかけてくる。
スコットランドの作家、クリストファー・オール Christopher Orr。ずっと昔にどこかで会ったことがあるような絵画。でも、それは錯覚で、シュールや幻想絵画の系譜を辿りながら、この奇妙な現代作家の世界に入り込 んでみると、彼のイメージのオリジンは、あと1世紀ほど遡るとやがて気がつく。

オールは、イギリスのターナーJoseph Mallord William Turnerや同じ時代のドイツの風景画家      カスパー・ダーヴィト・フリードリヒCaspar David Friedrichのロマン主義的な表現に大きく影響を受けたといわれる。

廃墟なり暴風雨なり、崩れゆく風景。そのロマン主義特有の不安な美しさに共鳴しつつ、フィクションと構成主義を往復しながら、現実と幻想の境界を消してゆく、そういう仕事をするアーティスト。
何かを暗示し象徴もするが、しかしオールの持つ抽象性は、地球の奥で燃えるマグマのような胎動のエネルギーと幻とを行きつ戻りつ、現在と未来の物語に続いているかのようだ。

何層にも塗り重ねて描き出す質感と形象。あるいは、絵具をナイフでカリカリ削ぎ落し、キャンバスの下に浮かび上がらせる、謎の姿。

ここに展示された13点の新作は、ほとんどが0号から3号ぐらいと小さい。それらが、静寂の壁からぽつんぽつんと言葉を誘発し、絵画の提示する意味が世界のあらゆる角度から交差する。

午後9時の会場に、胸元をざわつかせるあの世でもこの世でもない虚構の風景を並列して、光と闇のリリシズムを放っている。

https://www.hauserwirth.com/

コメントを残す