友達のアンヤの家に遊びに行った時、キッチンのカウンターに妙な色の卵があった。
「野鳥の卵よ」、と言われても信じそうな、緑やベージュのまだら模様、苔に包まれたピータンのような卵。それがセットになっている。
カラフルな染め卵を飾るのではなく、「今年はこれで行くの」、と彼女は言った。
環境先進国らしいトレンドなのかも知れない。
実は、私もまねをして同じ卵を買って、森から採って来た苔の上に飾ってみたのだが、これが、何だかこのまま置いておくと、不思議な生き物が生まれてくるような、かなりナチュラル急進系ぽいデコレーションになってしまった。
モダンアートには近づいたかもしれないが、イースターにはほど遠く、絶対こういう使い方ではないと確信したとはいうものの、道が見えなかった。あちこち移動させたうさぎやニワトリにも迷惑なことだった、と反省している。
イースターの休日は火曜日まであり、2週間ほどの休暇を取っている人も多い。
家でゆっくりしているからと、アンヤの家族に夕食に招かれた。
今年のイースターは、昨年より3週間遅い。
1年の季節が全てやってくるという4月。普通は、雨が降り、雪もたまに降り、大粒の雹がたたきつけてきたり、そうかと思うと急に晴れたり。油断のならない月なのだ。
ところが、どうしたことか、ここのところ初夏のような毎日で、昼間はとにかく暑かった。
お天気が良くなってくると、スイス人の週末は、庭やバルコニーでバーベキューということになる。公園や森でも火を熾し、肉やソーセージを焼く。
エントランスに、恐竜みたいな巨大卵と、あのスーパーで売っている苔むした卵がアレンジされていた。
なるほど、単体ではだめだったのだ、と少し腑に落ち犬と一緒に庭へ行くと、すでにアぺロが始まっていた。
プレゼンテーションプレートには、ホワイトチョコのうさぎとパステルカラーの小さな卵のチョコをデコレーションしてひとりずつに。
何の鳥だかわからない卵は、庭にあった枝や葉を使って大きなガラスの花入れに飾り、「ちょっと色が寂しかったのでキャンディ―をアクセントにしたんだけど、どうかしら」、と彼女は首を傾げる。
ベーコンをぐるぐる巻いた大きなポークの塊りが、目の前を通り過ぎてグリルにのせられる。
夕食を探す鳥たちが高い声で鳴き交いながら、時折木々の間に顔を出す。
そうか。この生活から生まれるデザインなのだ、とようやくわかり、私の卵案は消えていった。
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3月最後の日曜日。前夜からの雨がやまない。
急遽決定された、チューリッヒ歌劇場管弦楽団による東日本大震災チャリティ演奏会が、朝11時からチューリッヒ・トーンハレで開かれた。
普段それほどフォーマルではないマチネも、この日はダークスーツやシックなドレスの方が目に着いた。
開演間際に、舞台脇の扉から走り込んできたペレイラ総裁の顔は、少し蒼白く厳しい。哀悼の辞が続き、その最後に黒に着替えてステージに現れた。
優秀な日本人の音楽家が何人もいるが、今日のオーケストラは日本人以外の奏者で構成されたこと。休憩を挟まないこと。そして、演奏の最後に拍手をしないようにと身体を揺らしながら伝えると、短いスピーチを終えた。
この日の夜上演されるヴェルディの「フェルスタッフ Falstaff」を収録するために、偶然にもNHKのスタッフの方たちが訪れていたそうだ。
主席指揮者、ダニエル・ガッティ Daniele Gatti 。曲は、マーラーGustav Mahlerの最高傑作ともいわれる交響曲第9番。
第4楽章のアダージョは、大きく、ことのほかゆっくり。天に地に祈りつづけるかのような鎮魂が流れる。弦だけで演奏されるこの最終章が徐々にか細く消え入ると、ガッティは、ガクン、と頭を前に落とし指揮棒を下げたそのままの姿勢で止まってしまった。演奏者全員、指揮者を見守っている。
やがて、私たちも無言で席を立ち始めた。
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震災1ヵ月。
各地の教会で、学校で、大小のチャリティー・コンサートがほとんど毎週のように開かれている。
今日は、このトーンハレで、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、チューリッヒ室内管弦楽団、チューリッヒ歌劇場管弦楽団、ヴァイオリニストのユリア・フィッシャー Julia Fisher によるジョイントコンサートが開催された。指揮は、この3楽団をリードするに流石の重鎮、クリストフ・フォン・ドホナーニ Christoph von Dohnányi。
チケット収益は、スイスのNGOグリュックスケッテ Glückskette(幸運の首飾り)の日本支援へ義援金として届けられる。
お亡くなりになられた方々の御冥福を心よりお祈りいたします。
被災者の皆さま どうぞ一日も早く平穏な日常がとり戻せますよう、この地よりでき得る支援を継続させていきたいと思います。