大聖堂のほど近く。旧市街ニーダードルフ Niederdorfの石畳をぶらぶら歩くと、時々のぞくお店がある。
シュテフィ・タルマン Stefi Talmam。
建築からタイポグラフィ、インダストリアル・デザインまで。かなり幅広く、スイス・デザインという概念があるが、彼女は、ファッションの系列でその先端を走っている一人として知られる。
コレクションは、靴とバッグを中心に、ウィンドーに並ぶ小物やアクセサリーのカラーバリエーションに意外性があって面白い。特に、ベースに使う皮とカラフルなハラコの組み合わせ。ユーモアと知性、機能性の配合具合がうまいのだと思う。
20世紀半ば以降、この国のデザインを革新してきた多くは、海外からスイスへと移って来た人々だった。シュテフィもまた、ヨーロッパとアジアの血を引く、コスモポリタン。
シャープでシンプルであったスイス・デザインの源流を汲み取りながら、ボーダレスな感性で時代を斬ってワーキング・ウーマンにフォーカスしているあたりが、多分とってもチューリッヒらしいのだろう。
主張の強いスイスの女性の間で人気を確立しているが、アメリカやアジアにもファンが多い。
コメントを残す
晴れた日。雪に覆われた遠くのアルプスが、くっきりと稜線を光らせている。
夜がすっかり長くなり、5時頃には、もう日が暮れる。
焼き栗屋さんを横目に見ながら街を急ぎ足で歩いていたら、ちょうどクリスマスのイルミネーションに灯がともされた。小さな光があふれているのは、石畳の路地のなか。トラムが走る駅前の通りは、4年ほど前に、モダンアート系の青っぽい光に変わってしまった。
巨大銀行の前の巨大ツリーに梯子が掛けられ、赤や金のボールを持った影がいくつも動いていた。
ドレスアップする機会が増えてくるせいか、最近、夕方のジムは、だんだん混んできた。ヘビーな食事が続くフェスティブ・シーズンは、もうすぐそこ。
着るはずだったものが、着てみたら何か違ったという、予定直前の失敗を繰り返すので、ちょっと焦る。
通っているのは、普通のジムだが、街の真ん中にあるというのがとにかく便利で、しかも、チューリッヒを凝縮したように多国籍な環境が、外国人の私にはイージーだ。
地球上のあらゆるところからやって来た人々が集まるので、色々ななまりの英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、そして、スイスドイツ語などなど。実にさまざまな言語が聞こえる。
地味で質素だと思っていた、チューリッヒ。しかし、ここのロッカー・ルームに出入りするようになってから、結構ドラマチックに印象が変わった。
特にこの時間帯は、昼間とは全く違う。年齢層がぐっと若くなり、なんとなく華やかさがある。
お洒落なマダムが、時計を見ながら帰り支度をしている。モデルのような女性が、ツンと顔を上げて、鏡の前で立ち姿を見ている。
金融街を控えているので、そこで働く人も多いのだろう。もう少し寒くなると毛皮のコートがハンガーにずらっと並ぶのは、圧巻。
日本から訪れる誰もが、洗練された街、と言うが、なるほど、富裕な街だと、こんな断片を見ても納得するものがある。
小さな買い物があって、飲みかけのエビアンを抱えたまま、閉店間際のデパートに飛び込んだ。
大げさにならないプレゼントを、友達に。
もう今年のカラーやデザインを考えている人が多いので、どうしようか迷ったが、クリスマスのオーナメントのなかから、テーブルに置くキュービックのキャンドルをひとつ。オフ・ホワイトで選んでみた。
冬の雨が降って来た。
コメントを残す
地理的に言えば、チューリッヒ湖の南南東。こちら側は、対岸のゴールド・コーストに対してシルバー・コーストと呼ばれる。太陽が山をかすりながら差し込むため、陰影が濃い。光はどことなく物憂く、ネオ・クラシックの美しい彫刻が施された建物が並ぶ街並みは、物語性に満ちている。何か語るべきものがたくさんあるはずなのに、それでいて、歩くたびにいつも謎解きを仕掛けてくるようだ。
トラムを降りて、左。坂道を上がって鉄の扉を過ぎると、森の小道が始まり小高い丘の上に、19世紀半ば、絹貿易商として成功したオットー・ヴェーゼンドンクOtto Wesendonckが建てた優雅なヴィラが見える。この邸宅が、リートベルク美術館の旧館。すぐその前に建つ新館は、世界的なコンペが行われたので、建築に携わる方はよくご存知だろう。
リートベルク美術館は、ヨーロッパでも珍しく東洋とアフリカ、アメリカ、オセアニアの美術を収集している。
しかし、そこにスイスの民族芸術パートがあり、膨大なスイスの仮面をパーマネントコレクションとして収集しているということは、祭りの仮面を展示している今回の展覧会、Performing Masks Swiss Carnivalで初めて知った。
山の民は、今どこにいるのだろう、と漠然と思っていた頃。ある日偶然、テレビで動物とも人間とも見分けのつかない大きな仮面をつけて、雪のなかをとザクザクと歩く人々を見た。
ヴァレー地方に伝わるチェゲッテ Tschäggätä と呼ばれる悪魔払いのお祭りだと教えられた。2月の灰の水曜日の前の木曜日に行われる。姿形も家々を訪ね歩いて子どもたちを呼び起こすという風習も、日本のなまはげに似ていて興味深い。
諸説あるが、ここで使われていた仮面が、スイス最古とも言われる。その表情があまりにも幻想的で、超人的でミスティックな力を表現していることからも、すでに19世紀の終わり頃には民族学者の注目を集めていたそうだ。
また、スイスの4つの国語のひとつ、ロマニシュ語を公用語とするザルガンツ地方の仮面は、縦横に伸びる表情の豊かさが特徴的だ。展覧会のカタログを眺めていたら、この地方の彫り物師アルバート・アントン・ヴィリAlbert Anton Williが、鏡の前で仮面の形相を作っている写真を見つけた。
今回展示されている多くの仮面は、木を彫り、彩色され、動物の毛皮や羊の毛、織物などが用いられている。大きく分けて、3つの地方に古来継承されている仮面があるが、その貌のあまりの多様さにはいささか驚く。自然の厳しさ、山の険しさで周辺との交流が遮断されて暮さなければならなかった時代に、なお一層の個別性が高まったということなのだろうか。
山に囲まれたこの国では、キリスト教伝来以前の宗教、あるいは、宗教以前の信仰が、周辺諸国からさまざまに影響を受け、地方によってはカトリックと融合しながらも、独自の文化として再生を重ねてきた。
巨大な山への畏怖と尊敬。数々の神話も伝説も、しばしば各地の祭りのなかにそのルーツをうかがうことができるという。
アルプスの山々から、深い森から。館の奥の一室で、精霊たちが異彩を放っている。
コメントを残す
毎日使うペッパーは、そもそもスパイスの棚から飛び出している。
でも、どうせ外に出ているならば、キッチンで立ち姿が美しい方がいい。
高さ40cm。ちょっと大きなカラフル・ペッパーは、南アフリカから。
ミルは、カリカリカリッと小気味いい音をたて、ぴたっと手になじんで使いやすい。
ペッパー自体、おいしい配合で気に入っている。
コメントを残す
ヨーロッパのフィルム・フェスティバルとして、年々注目度を高めているチューリッヒ映画祭 Zurich Film Festivalが、5回目を迎えた。映画史上に残る大作を含め、60を超えるスイス及び海外の作品が上映されている。
インターナショナル・フューチャー、インターナショナル・ドキュメンタリー、ドイツ語フィルムの3部門がコンぺティション。これとは別に、デジタル映像やショート・フィルムなど幅広いジャンルの作品を観ることができる。
ヨーロッパ諸国はもちろん、アメリカ、メキシコ、イスラエル、ロシア、韓国などから参加。今回は、アルゼンチンのフィルムを数本シリーズで上映していることも話題になっている。
独自の表現と優れた才能を世界中から見つけ出し、その活動を奨励していこうという主旨があるが、若く、意欲的な映画人が集中しやすいチューリッヒの持つ斬新さと地の利にかなった映画祭であるとも言える。
関連イベントや若手のプロデューサーたちによるワークショップが各所で開催。さらに、モーガン・フリーマンMorgan Freeman、マイケル・キートン Michael Keaton、ピーター・フォンダ Peter Fondaなどのスピーチもプログラムされている。
「黄金の目 Golden Eye」は、優れた映画人たちへ授与される賞。
ロマン・ポランスキー Roman Polanski拘束の報道で、この映画祭の知名度も一挙に上がったようだが、ポランスキー氏に与えられたのが「功労賞 A TRIBUTE TO …」。業績への評価は揺るぎないものであると、氏不在のまま授賞式が行われることが、瞬時に発表されていた。回顧上映は、予定通り進行している。
生涯業績賞とも言える「黄金のアイコン Golden Icon」は、「ミリオンダラー・べイビー」「ショーシャンクの空に」「ドライビング Missデイジー」など多くの作品で知られる、モーガン・フリーマン Morgan Freemanに授与される。
10月4日まで
Photo: Zurich Film Festival