ノバルティスの鼻のスプレー タコ篇

ある年の休暇に、スペインのグラン・カナリアという島へ行った。
首都ラパルマスから車で30分ほど。ビーチは、かつて砂漠だった一部が動き、強烈な陽射しの下で白い砂丘になり、ここから、アフリカの北が見える。

アジア人に出会った記憶がないが、日本の商社マンは住まわれているのだろうか。とにかくドイツからの長期休暇のゲストが多く、ホテルも、英語よりもドイツ語の方が通じやすかった。

街から離れ、ホテルのなかで全てが完結するリゾートは、だらだらできて気ままなものだが、普通だいたい2週間、長ければ1ヵ月ぐらいステイする人々の間には、小さな社会らしきものが顔を出し、いくつかのグループのなかで、つかず離れずの社交性が求められることになる。

アジアのビーチは、たとえ名立たるホテルであろうとも、あまり服装に気遣う必要がないのでイージーに過ごせる。
それと比較すると、シーズンのヨーロッパのホテルは大変だ。

毎日、同じ服を着るのはご法度。朝食、昼の庭、夕食と、微妙にルールが異なる。
プールサイドのマダム達は、大きなパールのピアスが定番らしい。明るいブロンドの髪をアップして、重さのあるゴールドのネックレスをつけている貫録マダムもいらっしゃる。水着に宝石・・・・

お化粧、しっかり。泳がない方たちは、顔を水につけたりしないので、これでいいのだろう。
足元は、ゴム草履ではなく、ピンヒール。
もちろん、毎日ビキニも変える。従って、ストールも、サンダルの色も変わる。

凄いエネルギーがいらないのだろうか。

さりげなく何かを誇示するその迫力たるや、ヨーロッパに移って最大のカルチャーショックのひとつだった。

何夜かディナーを庭のレストランでいただいたが、数日経つとやっぱり飽きるので、ときどき外へでる。

ある晩、私たちは、タクシーを頼んで、港の近くへ移動した。
ひっそりとした波止場の周辺に、何軒かシンプルなレストランが並んでいる。
こういうときの勘は、たとえはずれても、つべこべ文句は言わない。

ビキニのお姉さんの日に焼けた古いポスターの脇に、エビ、ロブスター、イカ、タコ、後は名前のわからない魚の写真がぺたぺた貼られ、メニューには料理の写真がついていた。

どれもいい。全部、食べてみたい。

タコかイカ。
夫は、軟体動物が大好きだ。どっちとも決め難いなら、両方頼めばいいのだけれど、軟体二皿は、私にはちょっと辛い。
迷った挙句、イカにした。

しばらくすると、隣りの席に家族と友人連れなのか、父親らしき男性を頭に、8人ほどのスペイン人が大きなテーブルを囲んだ。
彼らは、メニューをさっと広げてすぐに閉じた。それは、何となくの確認作業であって、そこに迷いは見られなかった。古今東西共通して、地元の人が食べているものこそ、最高においしいはずだ。

やがて運ばれてきたお皿の上には、30センチ以上は絶対ある、立派なタコの足がで~んと反り上がり、8人、めいめいの前にタコが並んだ。8本、つまり、巨大タコ1匹、全部の足。圧巻だ。

よそのテーブルをうかがうなんて、褒められたことではない。分かってはいるものの、視界に入っているので見えてしまう。

ナイフで容易に切れるようだ。そして、とにかく、あんなに大きいのに、やわらかくて、ジューシーであろう、その食感が伝わってくる。

私たちのイカが悪いわけではない。
北大西洋を遊泳し、今朝漁師さんの小舟から揚がったイカは、甘みがあって、もちろんおいしい。

しかし、明日の夜は、ここにはいないという日だったので、もう一度来て、「今日は、タコにします!」、ということができない。

以後、どこか島へ行くと、やはりタコかイカかで心は揺れるが、あのご家族のように、巨大でやわらかそうなタコの足を、堂々と目の前に置いて、心おきなく食べてみたいものだと今でも夢に見る。

毎回奇妙なビジュアルインパクトで目を引く、スイスの製薬会社ノバルティス。
これは、鼻づまりの薬のシリーズ広告「Let The Sea Help You Breathe」。
タコ、カニ、竜の落とし子と3点シリーズだが、何と言っても、タコは、役者だ。思い切りのいいコミュニケーションで成功している。

テルアビブとスイスのサーチ&サーチで制作され、スウェーデンで展開された。

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Client: Novartis

Brand: Otrivin

Media: Print

Title: Let The Sea Help You Breathe

Description: A print campaign for Otrivin nasal decongestant.

Advertising agencies: BBR Saatchi & Saatchi Tel Aviv and Saatchi & Saatchi Switzerland

Chief creative officers: John Pallant, Roger Kennedy, Derek Green

Executive Creative Director: Yoram Levi

Creative directors: Nadav Pressman, Ad Noy

Art directors: Yuval Zuckerman, Udi Ovadia, Fiona Parkin

Copywriters: Idan Regev, Eliad Friedman

VP Planning: David Kosmin

Senior Planner: Guy Gordon

Planner: Carolyn Dateo

Account supervisors: Stéphanie Rupp, Kirsten Kollerie

Advertiser’s Supervisor: Philippe Zell

Account Managers: Mélanie Foucher, Elena Ballestreros

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