毎年6月に開催される世界最大のアートフェア、アートバーゼルは、今年40歳のビッグバースデーを迎えた。
世界中の800を超えるギャラリーのなかから厳正に選ばれた、29ヵ国、300を超える超一流のギャラリー。およそ2,500人のアーティストの作品が並び、61,000人が訪れた。
会場のほぼ正面に置かれた立体は、チューリッヒのギャラリー、プレゼンフベアPresenhuberから。ヴァレンティン・キャロンVALLENTIN CARRONの作品、初夏の真っ青な空に向かってそびえる巨大な黒い十字架だ。
スイスの新聞NZZ(Neue Zürcher Zeitung) は、「まるで、アートバーゼルの誕生日を墓場に運ぼうとしているかのようだ。しかし、不幸な出来事は起こらなかった」と、経済不況の影響をほとんど見せない大成功を報じた。
ジーンズでぶらっと現れたブラッド・ピットやチューリッヒ在住のサッカープレイヤー、グンター・ネツェー。ナオミ・キャンベルとカール・ラガーフェルドのツーショットは、プレビュー翌日に世界に流れた。ロシアの大富豪ロマン・アブラモヴィッチ。MOMAやポンピドー、ルーブルはもちろん、ほとんどのメジャーな美術館から訪れた館長たち。地球のあらゆる場所から、トップクラスのコレクターがプラベートジェットで集まった。
昨年と比べるとアメリカのギャラリーがわずかに少ないものの、それでも、Blum & Poe、Matthew Marks Gallery、Richard Gray Galleryなど、枚挙にいとまがない。
さすがに今なお大きな磁力を持ち、全体のクオリティが引き上げられていたのは、数も多かったが、ベルリンのギャラリー。例えば、nuegerriemschneider、Esther Schipper、Galerie Max Hetzler、Galerie Eigen + Art。ケルンのKewenig Galerie、ミュンヘンのGalerie Bernd Klüser。
ロンドンからの常連、White CubeやStephen Friedman Gallery。バスキアとミロがビビッドに並ぶパリのGalerie Hopkins-Custot、ハンス・ベルメール、ピカビアなど、やはり巨匠をそろえるGalerie 1900-2000。
メキシコ・シティのKurimazuttoのレベルの高さも、際立っていた。
日本からは、今年も小山登美夫ギャラリー、ギャラリー小柳、SCAI THE BATHHOUSE 、シュウゴアーツ、Taka Ishii Galleryが出展した。
隣接するArt Unlimitedでは、作家、作品ごとに展示。絵画はもちろん、写真、ビデオワークなどのインスタレーションや巨大な立体。ありとあらゆる可能性を提示する。
奈良美智の作品、廃材で組み立てた小さな家Torre de Málagaに、出たり入ったり。絶えず人が集まっていた。
ところで、チューリッヒがパリ、ロンドン、ニューヨークと並ぶ現代アートの拠点であることがあまり日本では知られていないが、アートフェア開催地バーゼルとともに20世紀アート史上、とりわけ1910年代半ばから重要な活動を展開してきた都市である。そのチューリッヒ
からは、Hauser & Wirth Zürich、Peter Kilchmann、May36などが、やはり意表をついた企画を見せた。
Bruno Bishofgerは、アンディー・ウォーホルAndy Warholの「Big Retrospective Paintin 1979」1点だけを展示するという作戦だった。207×1080cmの作品が壁一面にあり、座って観ることができるようにと椅子が数脚置かれた。プレビュー以前から、誰が求めるのかと地元でも大きな話題になっていたが、ちなみにお値段は、80ミリオン スイスフラン。約70億円。
終了後、ギャラリストたちから多くのコメントが発表されている。
チューリッヒのBob van Orsow は、新聞のインタビューで語った。「アートバーゼルは、世界中のあらゆるアートメッセのクイーンなのです。ギャラリーは、クイックなお客様を期待していませんし、また、どこかのギャラリーで何か購入したかどうかなど、誰も尋ねません。そういうことを好まないのです」。
しかし、この女王は、気高く美しく、とても頭がいい。鑑識眼にずば抜け、時代を読み、市場をリードするマーケティング力に長けた、真摯でダイナミックな戦略家である。
会場1階は、入口の右側1つ目のブースがバーゼルの美術館「バイエラー財団」で極めて格調高く始まることもあるが、フロア全体の空気にノーブルな緊張と知的な抑制が漂う。
ひとつひとつのギャラリーのブースは、明日そのまま企画展として、世界のどのような国際都市ででもドアを開けられるほど、実にパワフルなショウを見せる。成功しなければ、来年は登場できないかもしれない。それだけに、どのギャラリーを見てもコンセプトが強く、明快であり、テーマ性がある。それが観る側を次々と挑発してくるのだ。
アート40バーゼルは、控え目な期待に反して巨大な成功をおさめたと評価される。売上を憶測する数字はまだ飛び交っている。
アーティスト、トップコレクター、キュレーター、メディアなど、現代アートに関わる様々な人々が集まり、新たに出会う。そのような最先端の交流の場でもある。
時代の大きなうねりが起こっているようだった。
去年とも一昨年とも違う。特に、ギャラリストの表情に、異質な何かが見える。
プレスリリースを読み、そのヒントを発見したように思う。
「今回のアートバーゼルは、アートマーケットがそのルーツに回帰したことを目撃しました。知識、サステナビリティ、そして、芸術に対して真面目で真剣であること。これらが、最前線に戻りました。プログラムを進行したギャラリーは、この現象から大きな利益を得たことでしょう」。Mathias Rastonfer Galerie Gmurzynska, Zurich/St.Moriz/Zug
会場内Photos by Art 40 Basel
https://www.artbasel.com/
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毎年6月に開催される世界最大のアートフェア、アート・バーゼル。北南米、ヨーロッパ、アジア、そして、アフリカ。およそ300のリーディングギャラリーが一堂に会し、コンテンポラリーから現代アートまで、2500人以上のアーティストの作品を展示、販売する。
6月10日より開催。
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初めてパリへ行ったとき、迷わずクーニャンクールの骨董市を予定に組み込んだ。さすがに、わくわくする宝物がそこらじゅうに転がっていた。バロックのテーブルもベルエポックのグラスも、あまりにも無造作に次々と現れた。
椅子を探していた。これはと思しきものを眺める。家に連れ帰って、いつもの空間に置かれた姿を想像する。
違う。どうしても、違う。線もボリュームも、日本の部屋には強すぎて、バランスを取るのは到底無理だ。
もう諦めかけていた時、ある店先で椅子なら屋根裏部屋にまだたくさんあるといわれ、昇って行った。そこにいたのが、彼女である。アールヌーボーとデコの端境期に作られ、微妙にその流れを感じさせる。
やがて、日本からアジアへ。そして、スイスへ。私につきあってもらうことになる。
チューリッヒへ移動したら、きれいにしよう。ヨーロッパの家々できちんと修復されたアンティークの椅子を見るたびに、そう思うようになっていた。
3年前の初夏。ご近所の骨董屋のご主人は、一目でこの椅子を気に入ってくれた。「フランスから。そんなに長い旅をして、スイスへやって来たんだね」。恐らくは、アフリカのどこからか運ばれたであろう、黒檀で作られていた。
地図をいただき、紹介された生地屋さんへ。素材のイメージはすでにあったので、無地のものをいくつか並べ、一番好きな色を選んだ。織物の用語で、縁飾りは、「ギンぺ Gimpe」と呼ぶそうだ。
骨董屋へ戻り、生地を見ながらご主人と足の色を探した。塗り替えることにやや抵抗があったものの、結果的にはこれで良かった。
2ヵ月待った。
「この椅子のデザインがこのあたりではとても珍しくて、いろんな人が見にきていたんですよ」
解体された椅子から100年前のスプリングは取り出され、新しく入れ替えられた。組み立て直し成形し生地を張り、最後に背と足を塗り上げるまで、4人の職人さんが分担したと聞いた。
言語圏が違うとはいうものの、この椅子がすんなりとなじむ風景が、確かにここにはある。
こちらの椅子は長い長い旅をしてきたんですね。
職人さんたちの手によって修復され、これからも使い続けられていく・・、素敵だなぁと思いました。
石畳が似合う椅子ですね、曲線がとても綺麗です。
ありがとうございます。
この線と質感の持つ色っぽさにほれ込んで、求めたのだと思います。