スポーツ・サイコロジストという仕事

チューリッヒ、バンクーバーの時差は、―10時間。ここのところ、テレビのプログラムを眺めては、ディナーの時間が微妙に動くという変則的な事態が発生していた。

ところで、、ジャンプで突然才能が目覚め、「スキー界のハリーポッター」と呼ばれたスイスのシモン・アマンSimon Amannが、ダブル・ゴールドメダルを獲得した時、スイスのテレビ局は、彼のスポーツ・サイコロジストである、スイス・スポーツ・サイコロジー協会 Swiss Association for Sport Psychology (SASP)の会長 ハンスピーター・グベルマンHanspeter Gubelmannへ1時間のロングインタビューを特別枠で組んだ。

学問として、スポーツ心理学は、比較的まだ若い。

その黎明期は、19世紀後半のアメリカ。子どもたちを見ていて、グル―プで自転車をこいだ方がひとりの時よりも速いことに気づき、子どもを対象に研究を進めた人がいた。

20世紀に入ると、コールマン・グリフィス Coleman Grifithがイリノイ大学で、フットボールやバスケットボールの選手を研究し始め、知覚の変化、筋肉の緊張、リラクゼーションなど、彼らの反応に興味を持ち始めた。

その後も研究は続いたが、アカデミックな分野で学問として認められるようになったのは、1960年代から。まず、ローマに ザ・インターナショナル・ソサエティ・オブ・スポーツ・サイコロジー が設立され、この活動が徐々にヨーロッパへ広まって行く。ほぼ同じ時期にアメリカにも、いくつかのファウンデーションが誕生し、心理学のなかの新分野としての地位を確立していった。

やがて、近代スポーツの時代になると、1984年に国際オリンピックチームがスポーツ・サイコロジストを迎え入れたことに始まり、今では、あらゆるプロフェッショナルなスポーツ・チームでは、専任の心理学者であるスポーツ・サイコロジストがメンタル面をサポート。それが、世界の常識となっている。

スポーツ・サイコロジストの仕事とは何か。
ちょっと勘違いしそうだが、スポーツのテクニックが心理学によってアップするということではない。そして、「根性」とか「やる気」といった分かりやすいが化石化している精神論とは、全くの対極にあるということを、まずイメージしていただきたい。

生活環境、性格、人間関係、ストレスの種類、不安とその立ち向かい方。アスリートがかかえる様々に個人的なディメンションの問題を分析して、さらなる可能性を引き出すために問題を解決していこうとする、心理学の新しいフィールド。大きなコンペティションでも、自信を持ち、冷静に自己コントロールできるように、サポートしていく。

継続的に、アスリートのプライバシーと深く関わる仕事であるため、信頼関係の上に成立するパートナーシップがキーとなる。

そのスポーツ・サイコロジーの分野に、スイスで大きなプロジェクトが動いている。ここ3年でチューリッヒ近郊に大規模なスポーツセンターが建設されるという計画。3つのアイス・リンクやプール、サッカー・スタジアムなどの施設を備え、医師、フィジオセラピー、バイオメカニック、スポーツ・サイコロジーなどを併合した複合施設。ここにスポーツ・サイコロジー・センターが開設され、今後スイスにおける中核として活動していく。

上記、スイス・スポーツ・サイコロジー協会の副会長クリスティーナ・バルダサール・アケルマン Cristina Baldssarre Ackermann 氏にインタビューする機会を得た。撮影は、スイスのドイツ語新聞 NZZ (Neue Züricher Zeitung) や多くの雑誌で活躍する、なかなかイケメンのピルミン・ロスーリ Pirmin Rösli。

現在発売中の「プレシャス」3月号。巻頭グラビア、世界4都市のワーキング・ウーマンが登場する Life is so Preciousに掲載されている。

https://precious.jp/category/precious-magazine

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スイスインターナショナル LX Forty with マーク・フォスター

CMは http://vimeo.com/5065285

ふたつの選択。

私の顔。

あなたの顔。

真実の顔。

なぜ、旅を始めたのだろうと、その理由を思い出すとき、
私たちは、ようやく自分の真実の顔を知ることができます。
それは、時々、忘れていたりするもの。

映画が始まって、そういう人生もありうるかもしれないと考えてもみる。
しかし、ほとんどの場合、私が見たものはどうも好きになれない。
私は、ブランケットを被って、何日もベッドにもぐっている、
そんなこともある。

想像してみましょう。
世界は、その巨大な車輪を回転させているのだと。
同じパターンを異なる形で、何度も何度も繰り返し回っているのだと。

私たちの人生には、二つの嘘があります。
私たちが誰かに語るものと、私たち自身に打ち明けるもの。

愛。

それが、ただひとつの答え。
いったい何が真実なのか。
探し求めて辿りついたところに、私は、その答えを見つけました。
私は、いつもずっと前を見ていました。後ろではなく、前を。
それより他にいい方法なんて、ありはしません。

人生は瞬く間に変わります。
私たちよりもさらに速く。
大切なのは、今までよりも、もっと豊かなコミュニケーション。
言葉の多さではなく、言葉を超えて。

時代は、ますます加速しています。

だから、私は壁にぶちあたるまで、
自分がいったい何者であるのか、はっきりと見ることができないのです。

私たちは、希望を実現していきます。
旧いシステムは、脱ぎ捨てられます。
時代はスローダウンし、本来の基本へと立ちかえるでしょう。

私たちは、新しい道を発見することができます。
永遠に変わることのない道です。
なすべきことを見つけるだけではなく、それよりもさらに、
日々の仕事のひとつひとつのことから、よりよくできることを導き出す。
そのような責任を果たしていきたいと思います。

なぜ、この旅を始めたのだろうと、思い返すのは、描いてきた軌道。
それは、さなぎから蝶が生まれ、ひらひらと宙を舞うことに似ています。

空を飛べたらいい、そう思いませんか。
私は、今でも思っています。

YOUR FLIGHT, SWISS MADE

 

(独語・英語より 訳:八木美恵子)

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光や生命を感じるCMなので、こういう季節に見直してみるのもいいかもしれない。

スイスインターナショナルは、現在ルフトハンザの傘下にあるが、やはり、スイスの顔である。

モットーは、「個人的な配慮」「スイス・ホスピタリティ」「細部への高品質」。

このショートフィルムは、スイスの映画監督マーク・フォスター Marc Forster とコラボした作品。制作は昨年だが、ロングランで今でも流れている。

2分27秒。

Brand: Swiss Air

Advertising Agency: Publicis Zurich

Creative: Martin Deneke

Director: Marc Forster

Producer: Peter Lehner

Director of Photography: Roberto Schaefer

Editor: Jay Nelson

Production: Ping Pong Animation: MK12

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スノボ・ウシ

お元気ですか。スイスの牛です。

日本は、トラ年なんですね。
ここは、どうかなぁ。寒いし。
アイドルは、いろいろいますが、
年間通じてっていうことでは、やっぱり、牛が人気じゃないかしら。

冬の間は牧場に出ないので、あまり人に会う機会もありませんが、
ミルクは、毎日お届けしています。
週末は、友達と近所の雪山に出かけて、こんな感じでスノボしたり。

ポスターになった3点は、冬のキャンペーンのお仕事。
ジャンプも楽しかったけど、CMでは、スケルトンにトライしてみました。

今度の金曜日から2週間ほど、スイスはスキー休暇。

ちょっとまた滑ってきます。

TVスポットは、こちらから。

https://www.swissmilk.ch/de/

© Swissmilk

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バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」チューリッヒ・バレエ団

チューリッヒ歌劇場といえば、もちろんオペラで有名であるが、実は、ここに所属するチューリッヒ・バレエ団の舞台は、「ヨーロッパで最も美しいバレエ」と呼ばれている。

オペラの素晴らしい歌手がこの小さな街に集約されるように、バレエもまた、しかり。世界中からエリート中のエリート・ダンサーが集まって来て、プログラムごとに綺羅星のようなスターが登場する。

振付家として有名なハインツ・シュペルリ Heinz Spoerliは、彼自身、ダンサーだった。
96年にチューリッヒ・バレエ団の芸術監督に就任し、以来、斬新でユニークなプロダクションを発表し続けている。

バッハの「ゴールドベルグ変奏曲Goldberg-Variationen」、全てを踊る。
この曲は、グレン・グールドの演奏で最も知られているが、リピートを含めて、2つのアリアと30の変奏曲を弾くと、演奏時間は優に1時間を超える。ダンスとダンスの間に僅かな間があるので、ざっと90分。
それを、まったく休憩を入れずに弾き続けたピアニストは、アレクシー・ボトビノフ Alexy Botvinov。ウクライナ、オデッサ生まれ。
19歳でモスクワのラフマニノフ・ピアノコンクールで優勝して以来、バッハ国際コンクール、クララ・シューマン・コンクールと世界的な評価を不動のものにしてきた。

今回のように、ソロならばなおさら。バレエであっても、彼の演奏を聴くことを楽しみに訪れる人々が多くいる。
シュペリエとは、90年代半ば、バレエ「スツェーネンSzenen」でシューマンを演奏して以降、卓越したハーモニーを生み出すパートナーとなっている。

チューリッヒ・バレエ団のダンサーは、誰もがソリストとして踊る実力を持っている、という精鋭をすぐるレベルの高さを自負する。

圧倒的にファンの多い、イェン・ハン Yen Hanは、繊細な感情表現が深く、美しい。溜息をつくほどのプロポーションから生まれる気品にうっとりとする、アリヤ・タニクパイェヴァ Aliya Tanykpayeva は、インペリアル・ロシア・バレエから移籍。サラ‐ジャンヌ・ブロドベックSarah-Jane Brodbeckは、快活で自由な空気が愛らしい、。

男性では、アルチュール・ババイャンヤン Artur Babajanyan、ブライアン・チャン Bryan Chan、アルマン・グリゴリヤン Arman Grigoryanなど。いずれも、超人的な跳躍力、目を瞠る静止力、天性の敏捷を兼ね備えた俊英たちだ。

最初のアリアが始まると、ゆっくりといくつもの影が動き出す。照明をぐっと落としたステージでは、それぞれのダンサーがそれぞれの音となって、記号を発信しているかのようだ。

舞台装置は、何もない。オーケストラピットにアレクシー・ボトビノフと1台のピアノ。照明、ダンサーの動き、次々と色を変えるレオタード。
足すのではなく、引く。ぎりぎりに削ぎ落とし、この舞台に関わる人間ひとりひとりの内面を引き出していくかのような作品。光と陰が交差する。

「私にとって、ゴールドベルグ変奏曲とは、通り過ぎていく人生そのものなのです」、とシュペルリは語る。男と女が出会い、惹かれあい、結びつく。別離がある。年齢を重ね、だんだんと成熟し、変化していく。そのように、互いに接しながら離れながら、時は過ぎゆく。

30の人生のバリエーションを踊るダンサーたちは、ときには、優雅にせつなく、気高く。また、ときには、アクロバットや体操競技を観ているかのような、「ダンス」で意表を突かれる。計算し尽くされた多様でエキサイティングなシーンが、目眩く目の前に現れては消えてゆく。

途中でソロが入るが、後半3曲、パ・ド・トュが踊られる。それらが何とも上品でしなやかで、夢のようなダンスだった。

ゴールドベルグ変奏曲は、第16変奏の「序曲」で、前半、後半が対比されるが、これをシュペルリは、「まるで孤を描くように」振り付けた。最初のアリアが繰り返されてゆっくりと終息するシーンで、舞台に再び静けさが運び込まれて来る。

不眠症のために演奏されたという逸話さえある長い曲。寝てしまうのではないかと心配だったが、驚かされ通しで、ずっと覚醒してい た。

長年高い評価を得ているプロダクションだと聞いた反面、「レオタードの色とライトがどんどん変わって、ダン サーが出て来て踊って、また次っていう感じ。それだけよ」とは、オペラ座常連の方。面白い。

あれだけのことを、それだけにも見せてしまう、省略。そのクラシックの基本の確かさと昇華。紡ぎだされる宇宙観のようなものが、やはり尋常ではないバレエ団なのだと思う。

Photo: Opernhaus Zürich / ©Peter Schnetz

https://www.opernhaus.ch/en/

“バッハ「ゴールドベルグ変奏曲」チューリッヒ・バレエ団” への2件のフィードバック

  1. roberto より:

    バレーの2枚目3枚目の画像が斬新で素晴らしいです。
    これをみると是非本物の公演を見たいと思ってしまいます。
    傑作を見せていただいてありがとう。

  2. Mieko Yagi より:

    roberto sama
    いくつか観ていると、ハインツ・シュペルリは、ほんとうに才能あふれる特異な演出家だと思います。あの2枚の写真は、絞り込むまでしばらく考えましたが、最も印象に残っているシーンから選んでみました。
    気に入っていただけて、とてもうれしいです。ありがとうございます。

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