スイスの街を歩いていると、いたるところでオレンジ色のMのマークのスーパーに出会う。M、MM、MMMと店の規模によってMの数が違うが、これらはスイス全土を網羅する生協、ミグロだ。
1925年。ミグロの創業者ゴットリーブ・ドットワイラーは、T型フォードを改造した移動販売車にコーヒー、砂糖、パスタなど生活必需品を積んで、路上販売を始めた。ドットワイラーは、旧来の商習慣に堂々と対抗し、生産者と消費者を直接結びつけて価格を大幅に引き下げるという、全く新しいビジネスで庶民の生活に奉仕する姿勢を明確にした。
当時としては、非常に斬新な社会企業的な経営哲学を持ち、消費者との協同、利益還元を目指し、やがて協同組合方式をとることとなる。
現在、ミグログループは、スイス全土に国内最大規模でスーパーを展開。デパート、金融・保険、旅行、語学や成人教育など多岐に渡る異業種を持つコングロマリットに発展し、スイスにおける暮らしのあらゆるシーンに関わっている。
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Giving something back to society.
1957年。ドットワイラーは、スイスにおける文化活動を推進していく、「ミグロ カルチャー パーセンテージ」を設立した。
企業の利潤や経済的力以上に、文化的、社会的貢献を継続することによって、企業もまた持続可能である、という思想は、創業時から現在まで貫かれている。
収益ではなく、売り上げの一定割合で運営されるこの団体は、早くから前衛芸術の作家を支援してきた布石を現代アートの美術館へと発展させ、いち早くモダンダンスを紹介してきた実績が、今日では名高いモダン・ダンスフェスティバルに成長するなど、まだ光の当たっていない美しさ、可能性を卓越した先見性で見出し、育て、新しい時代にその存在価値を高めてきた。
例えば、戦後間もなく企画された「クラブハウス・コンサート」。まだまだ貧しかった時代に、クラシックを聴きに出かけるなど、庶民には叶わなかったわけだが、上流階級や一部の愛好家のものだったクラシック音楽を万人へと、誰もが楽しめる場と機会を創出した。
ヨーロッパ諸国から、ニューヨークから、第一線の音楽家たちを招いてコンサートを開催し、演奏会へ行くための洋服がなくても、手頃な値段のチケットを買えば聴きに行くことができるようになった。
社会的に意義があり、役に立つ活動をする。それを継続的に発展させるためには、スイス人が潜在的に何を求めているのか、常にそれを見つけ出さなければならない。
60年を超える伝統あるこのコンサートは老齢化していたが、近年若い人々へ、より幅広い人々へとマーケットデザインし再ロンチした、「「ミグロ カルチャーパーセンテージ クラシック」として生まれ変わり人気を高めている。
「ミグロ カルチャーパーセンテージ」の仕事は実に多岐であり、多面的であるが、文化的活動を担う分野は、音楽、パフォーミングアート、美術館、ソーシャルプロジェクト、ポップ&ニューメディアなど私たちの周辺にあるすべての「文化」が対象となり得る。
その活動として特筆すべきことのひとつに、コンペティションと才能の育成がある。公募のコンペで発掘された有望な音楽家、俳優、歌手、美術家など、若い芸術家たちを、「ミグロ カルチャーパーセンテージ」が支援し育てていく活動だ。彼らが生活していけるようになるまで、世に名前が出るまでの間サポートするというミッションは、一人ひとりのアーティストに対して大きな責任を負うことになる。
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国際的にも極めて高く評価されるミグロ生活協同組合連合会。その文化・社会局局長のへディ・グレーバーさんに、インタビューする機会を得た。バーゼルの教育委員会から現職へ移り、10年。スイスの文化事業を牽引する敏腕のリーダーは、さばさばと明るく、よく笑う方だ。
写真、ピルミン・ロスリーPirmin Rösli 。現在発売中の「プレシャス」8月号、巻頭グラビア、世界4都市のワーキング・ウーマンが登場するLife is so precious ! に掲載されている。
お手に取っていただければ幸いです。
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