アート41バーゼル  世界最大のフェアと美術館がネットする、アートの街

錆びた鉄色の巨大な箱が見える。ヘルツォーク&ド・ムーロンHerzog & de Meuron設計の「信号取扱所」だ。列車はバーゼル駅に滑り込む。
スイス、ドイツ、フランスに接する、ヨーロッパ最大の国境駅。ここに降りると、いつもちょっとした異国情緒を感じる。
ネオバロックのファサードを抜け、トラムに乗って中世の街並みを走り、視界が開けて間もなく、メッセ会場に到着する。

41回目を迎えた、世界最高峰のアートの見本市、アート・バーゼル。毎年、ヨーロッパがホリデーシーズンに入る前、今年は、6月16日から20日までの5日間開催された。15日のプレヴューは、例年通り、各国の名立たる美術館の代表がずらりと揃い、ギャラリスト、キュレーター、評論家、VIPなど、招待客とマスコミ関係者で華々しくオープンした。

アート・バーゼルに参加することは、世界中から選ばれたトップ・ギャラリーという名誉を授かることに等しい。南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカなどの約1100の応募ギャラリーから37カ国、300を超えるリーディング・ギャラリーが厳選された。モダン・アートからカッティングエッジの現代アートまで、2500名を超えるアーティストの作品が一堂に会する。

日本からの常連、小山登美夫ギャラリーの奈良美智の陶製作品。ギャラリー小柳の杉本博司、マルレーネ・デュマスMarlene Dumas、SCAI THE BATHHOUSE から、名和晃平、チョン・ジュンホ Jeon Joonho。そして、シュウゴアーツの金氏徹平やタカ・イシイギャラリーの木村友紀、マリオ・ガルシア・トレスMario Garcia Torres など。いずれの画廊も、いいコレクターやファンを、年々世界に拡大している。

ちょうど、南アのワールドカップで熱戦が繰り広げられていた日々。メイン会場の隣、メディア・センターが設けられたビルのカフェでは、休憩中のギャラリストもゲストも一緒になって歓声を上げていた。

昨年は、アート・バーゼルらしいアイロニーで会場正面に真っ黒な十字架が展示され、どのギャラリーにも、ピーンと糸を張ったような緊張が走っていたが、今年のリラックスした空気は、作品を見てゆく楽しさが取り戻されているようだった。

経済危機を乗り越え、アートと対峙する本質へ帰ろうという前回からの流れはより安定し、それは、売り上げの堅調さに良く現れている。

アート・バーゼル事務局が、作品の質の高さ、予想を超えた結果と発表するなかで、とりわけ誇らしい成功として強調していたのが、地球上から集まった来場者62,500人という過去最高記録であり、その人々の関心の持ち様と知識レベルの水準だった。

71年にアート・バーゼルを友人と設立した、バイエラー財団美術館Fondation Beyeler の創設者、エルンスト・バイエラーErnst Beyeler が、この2月に亡くなった。
アート・バーゼル開催期間中、特設会場では、アンリ・マティスHenri Matisseの「アカンタスACANTUS」を核にしたデモンストレーションを展開。毎年、エントランスすぐそばのトップにブースを持つホール2の会場では、バイエラー氏の写真が穏やかに微笑む。最も好きなアーティストの一人であったマティスが、ポリネシアの空から運んできた鳥たちが羽ばたいていた。

アート・バーゼルは、時代を代表するアートが展示される場であるという役割がある。それに対して、今回のフェアは、19世紀、20世紀の作品が数多く並んだことから、新しくない、という批判がかなり目につく。ミロ、ピカソ、カンディンスキー、ジャコメッティといったモダンアートとコンセプチュアル・アートとくくられる作品の点数が確かに増えていたが、それらに対して、安心して投資できる価値の分かりやすい作品が多すぎるというものだった。

数週間前に見かけた記事だが、日本のある美術館の展覧会に対して「まるで教科書に出てくるような・・・」という形容があった。てっきり批判なのかと思って読み進んでみたら、まったく逆で、これは、素晴らしい名画が信じがたいほど並んでいるという賛辞だったことがわかり、なるほどと目から鱗のようだった。

そういう表現でいうと、アート・バーゼルは、世界の美術全集や分厚い美術館の作品集をめくっているかのように、歴史に名を成す巨匠の作品や夭折した天才、飛ぶ鳥落とす 勢いの現代作家のアートが、とんでもないボリュームで、次から次と目の前に現れる。

開催当初は、美術が、あたかも家電や家具のように売られている、という大きな議論が起きたそうだが、その是非や意味は、この40年の間に大きく変化した。
しかし、そうは言うものの、実際、ギャラリーの奥まった応接室でなく、物々しいオークションでもなく、それらが、見本市の会場のブースで明らかに流通していることを目の当たりにすると、初めて訪れた人はかなり驚かされるだろう。

ロンドンのティモシー・テイラー・ギャラリー Timothy Taylor Galleryを始め各所から、「非常に健全なマーケット」というワードが聞こえた。

何年間か続きブームであったが、ファイナンシャル・コンサルタントの助言で、自分の理解を超えた巨大な「現代アート」に投機しようという傾向は、下火になったと言われる。美術館へ移ることはともかくとして、感動し、手元に置きたいと思う作品を、自分の鑑識眼で判断する芸術ファンやトップ・コレクターがここに集まる。アート・バーゼルが世界に及ぼす役割と蓄積の重要さもまた、真摯に自負されている。

チューリッヒ、ロンドン、ニューヨークにギャラリーを持つ、ハウザー&ヴィルス Hauser&Wirthのイワン・ヴィルスIwan Wirthは、インタビューでこう語る。「コレクター達が、こんな風に興味を持つものかと、とても印象的でした。つまり、すでにその価値が確立された作品だけではなく、若いアーティストたちの質の高い作品を、きちんと評価するということです。コレクター達が確信を持って決断しているように、アート市場は、強い求心力を取り戻しています」。

若いカップルが、クリスト Christo の作品の前で、ギャラリストと話をしている。やがて、奥から2点、3点と持ち出され、通りかかった偶然でシリーズを見せていただいた。

プレビューでめぼしい作品はすでに買い手がつくと言われるが、ウィークデーの会場では、かなり作品の入れ替えがなされるほど、「お買い物」をする人々がいる。
ヴ―ヴ・クリコのボトルを氷のワゴンに冷やし、黒服のギャルソンが通路を周る。

これらの作品は、ホール2の300のギャラリーにあるが、中庭を挟んで隣接する、ホール1のアート・アンリミテッド Art Unlimitedでは、文字通り大きさの限界を超えた大がかりなインスタレーションや立体、ビデオが展示され、それらを次々と体験しながら巡る。空間がすとーんと抜けているだけに、アートのプールで遊ぶように、参加することでアートの一部になるような実験が楽しい。

ちょっと車で持って帰るというわけにはいかない大きさだが、お求めになる方は、どこかで相談しているのだろう。

Michael Beutler, Galerie Christian Nagel | Köln; Galerie Bärbel Grässlin | Frankfurt am Main; Pierre Bismuth, Team Gallery | New York Photo:Art Basel

アート・バーゼル開催の時期に合わせ、バーゼルの美術館では、大きな展覧会が開かれている。

シャウラガー美術館Schaulager Museumでは、歌手のビョークのパートナー、波に乗っているマシュー・バーニーMattew BarnyのPrayer Sheet with the Wound and the Nail展、「拘束のドロ-ウィングDRAWING RESTRAINT」。
バーゼル美術館 Kunstmuseum Baselでは、ローズマリー・トロッケルRosemarie Trockelのドローイング展。
バイエラー財団美術館では、ジャン・ミッシェル・バスキアJean-Michel Basqiat展とフェリックス・ゴンザレス = トレスFelix Gonzalez-Torres展を同時開催。どちらも若くして世を去った。

さらに、バーゼル現代アート美術館The Museum für Gegenwartskunstのロドニー・グラハムRodney Graham展、ティングリー美術館 Tinguely Mueseumのロボット・ドリーム Robot Dreams展など。

美術館の建築といい、企画の切り方といい、バーゼルの数ある美術館を俯瞰すると、さすがはチューリッヒを超える芸術の街と、お互いに刺激し合う関係を納得する。

中世の旧市街とカルチャーミックされる、尖った街の面白さ。世界の女王といわれるアート・バーゼルは、このエリアに先端の現代アートを枝葉のように張り巡らし、連動する仕掛けをつくっている。

Galleries: FOUNDATION BEYELER | Basel (2)/ Helly Nahmad Gallery |New York/ Galerie Gmurzynska|Zug/ Tony Shafrazi Gallery | New York/Sikkema Jenkins & Co.|New York/Sperone Westwater|New York(2)/Marlborough Galerie GmbH|Zurich/Sies + Höke| Düsseldorf/Galerie Peter Kilchmann|Zurich (2)/Richard Gray Gallery|Chicago/Galerie Bob van Orsouw|Zurich/David Zwirner|New York/Galleria Continua|San Gimignano Italy/Galerie Max Hetzler|Berlin/Galerie Hans Mayer| Düsseldorf/Kukje Gallery|Seoul/Gió Marconi Gallery|Milano/Waddington Galleries|London/Galerie Hans Mayer | Düsseldorf

Photo:©Mieko Yagi

https://www.artbasel.com/

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彫刻家のデッサンをアイキャッチャーにした デザインの力 

このデッサンを見て、アーティストの名前がすぐに浮かぶとしたら、その方たちは美術の専門家だろうか。
Duは、スイスドイツ語圏で発行されている、アート&カルチャーマガジン。
いずれもトップの写真家を起用し、グラフィックが大変クールに整理されたスイスデザインのお手本のような誌面だ。

距離感が心地良く、EVERY PAGE AN EYE-CATCHER と言い切るほど、洗練されて美しい。

これら3点のデッサンの先に、立体がある。そんなイメージの喚起が、洒落ている。

EYE TRACKING シリーズ広告。

ジェフ・クーンズ Jeff Koons HANGING HEART
アルベルト・ジャコッメティ Alberto Giacometti LARGE STANDING WOMAN Ⅱ
ソル・ルウィット Sol Lewitt INCOMPLETE OPEN CUBE 10/1

現在発売されている7・8月号は、2日から始まったモントルーのジャズ・フェスティバルを特集している。

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Advertising Agency: Euro RSCG Zürich, Switzerland
Executive Creative Director: Frank Bodin
Creative Director: Axel Eckstein
Copywriter: Ivan Madeo
Art Director: Christina Wellnhofer
Graphic Designer: Sarah Kahn

 

 

 

 

 

 

 

 

http://www.du-magazin.com/

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ホワイトアスパラガスのレストラン

日本であれば、山菜の楽しみがある。ウドもたけのこも、タイミング良く季節に帰国していると、飽きるまでいただく。

北ヨーロッパの初夏、5月、6月の旬の王様と言えば、ホワイトアスパラガス。味を積み重ねていく足し算の料理では、日本人がほろ苦さを尊ぶように風味を味わうのとは扱い方が幾分違うが、これがちょうどウドやたけのこのような立場にあたる。走りは、やはり話題になる。

チューリッヒのお店に出回る順では、まずは、チリやアルゼンチンといった南米もの。ポルトガル、スペインあたりの南から。その次に、堂々と並ぶのが、中には直径2センチもあろうか、実に逞しいドイツ産のアスパラガスだ。ライン川沿いの谷間。フライブルグFreiburgからハイデルベルグHeidelberg。ベルリンに近い、ブランデンブルグBrandenburg は、有名な産地だ。
市場でもスーパーでも、大きな木箱に、山のように積み上げられる。

数歩遅れて、それよりもかなり細身のスイスの地場ものが登場する。温度湿度の管理がされているので、ほぼ同じ時期に出てくるそうだが、寒くて天候不順の今年は、昨年より少し遅いような気がした。

ホワイトアスパラガスのために生まれた、縦長の寸胴鍋がある。毎年、迷う。やっぱり、あるべきなのだろうかと。他に何のために使えるだろうかと。
そして、今年もついに買いそうもなく、横に寝かして茹でてしまった。

ところで、私が出会った限り。スイスのどこのレストランでも、かなり柔らかく茹でる。他の野菜も押し並べて十分以上に茹でることからして、さっと湯がくという感覚は、かなり日本的なのだろう。
ウドの仲間なので、生で食べることができないものか、と考えていた。せめて、もっとしゃきっ、とさせるわけにはいかないのかと。

この疑問の雲を気持ちよく追い払ってくれたのは、数年前に朝日新聞に掲載されたレシピ。市ヶ谷のフレンチ、ル・マンジュ・トゥーの谷昇シェフの茹で方だ。ホワイトアスパラガスの皮は、結構厚く剥くが、捨ててはいけない。ここに滋味がたくさんある。この皮でカーバーして短時間で茹で上げ、余熱で仕上げる。ほろ苦さがおいしく残り、歯ごたえもある。
探していたのは、これだった。谷さんのようにクラシックの土台がしっかりしていて、しかも素材を大切にする料理家から、こういう逆発想の提案をされるのは面白い。

河川が運ぶ肥沃な土壌は、アスパラガスの成長にも適している。
車で1時間ほど。ライン川を越え、ドイツ国境に近いシャハウゼンShaffhausenの近くへ。フラッFlaach という村にアスパラガスの レストランが数件あり、いずれも、何世代かに渡る常連がついていると聞く。

ホワイトアスパラガスのために。私たちが1年に1回訪ねるのは、「水車小屋の上」オーバーミューレObermühle とう名のレストラン。18世紀初めの宿屋さんが改造された、どっしりとした石と木の建築。大きな古時計や牛のベル、鋤など。骨董がたくさん壁に掛けられている。
入口には、粉挽きに使われていた巨大な石が立てかけられ、ひんやりとしたエントランスからミシミシ音のする階段を上がると、ダイニングルームが左右に分かれる。

ファームスタイルの素朴な料理を出しているが、目的がひとつなので、メニューは見ない。というか、他の席の人々も、全員一様にホワイトアスパラガスを食べている。

スターターが終わると、自家製のバターを溶かした小さいお鍋が、火の上に乗って運ばれる。その隣に置かれたのが、細かく切ったグルイエールチーズ。黄身の色が鮮やかな、たっぷりとしたマヨネーズ。定番のソース、ホランデーズはカロリーが気になるものだが、このお店にはない。生ハムを添えることが多いが、ここでは、ロースハムという選択がある。

基本的には、ホワイトアスパラガスを、延々とひたすら食べる。ハムは、おまけみたいなもので、お皿がきれいになると、同じように茹でられた次のもう一皿が、やって来る。

どのくらい、食べるか? 多分、ひと束。皮ごと測れば、二人分で1キロはありそうなボリュームだ。

ホワイトアスパラガスの穂先をフォークで突き刺すのは、罪。そう言われる。大地に近い部分から切り分けてゆき、穂先は、最後にうやうやしく、そっと口に運ぶ。

それは、自然の力への挨拶。礼儀のようなものだろう。

この季節一番のご馳走。シンプルな夕食を、ゆっくりと味わう。

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弁護士のCIという、極小スイス・タイポグラフィー

広告にせよ、書籍のデザインにせよ。まだこれほど、コンピュータで仕事をしていなかっ頃。化石のような話に聞こえるかもしれないが、グラフィック・デザイナーは、上がって来た写植にカッターナイフをしゅうしゅうっと使って、切り張りして原稿を作っていた。字間も、微妙にコンマ何ミリという単位でこだわり、一文字取り上げては、職人のようにきれいに詰めていった。

特に、漢字、カタカナ、ひらがな、アルファベットと他の言語には見られない多様な文字の組み合わせをしなければいけない日本語であるから、すべて等間隔に開けてはいけないとは容易に理解できた。
そんな姿を横で見て、勉強のために意見を求められもし、いつしか私も自分の書いたものを目の前に、ここで切ってはイヤだとか、この書体は好きではないとか言い出していた。
文字の名前は、自然と目から耳から入って来た。

スイスデザインと呼ばれる概念は、タイポグラフィーから文房具、医療器具、家具、建築まで、私たちの生活に関わるおよそ全ての範囲に及ぶが、そのベースのベースになっているのが、1950年代以降スイスで発展した国際タイポグラフィー様式、あるいは、スイス・スタイルと呼ばれるグラフィック・デザインのスタイル。

ダダ、フォーマリズム、バウハウスなど、20世紀初頭のアバンギャルドの影響を大きく受けつつ、2つの大戦の戦禍を免れていたスイスでは、急速にデザインが醸成され、体系化され、世界へ広がっていくことになる。

レイアウトが、左右非対称であること。グリッドを使うこと。左揃えにして右側をそのまま流す。髭飾りのようなものがない、サンセリフと呼ばれる書体。

神話のように繰り返される名が、アクチンデンツ・グロテスクAkzindenz Grotesk。バウハウスで教鞭を執っていたパウル・レナー Paul Rennerが発表したフーツラFuturaは、後に、フォルクスワーゲンやヴィトンのロゴでもお馴染になった。
アドリアン・フルティガーAdrian FrutigerがユニバースUniversをデザインしたのが、1954年。57年には、マックス・ミーディンガー Max Miedinger とエデュアード・ホフマン Eduard Hoffmann による、ヘルベチカが誕生している。BMWやルフトハンザ航空などの書体であるし、その汎用性の高さから日本企業のCIにも良く使われている。

ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語という4つの国語を持つスイスでは、この書体に、いずれの言語にも偏ることのない、スイスのラテン語正式名称 コンフェデラシオ ヘルベチカ Confederatio Helveticaからその名を取った。
どのような言語にも応用しやすいのは、デザインの母体にしているのが多言語であったからだというのが定説。

無駄をそぎ落とし、すっきりとしたスイス・デザインは、新しい世代に受け継がれながらも新たな領域へと多くの冒険が見られる。

ミニマリズムを追求した歴史から斬新なデザインが次々と頭角を現すなか、この広告を見た時、いわゆるモダンに進化したスイス・タイポグラフィーとは違った、どこか逆行しているような異質なアテンションを感じた。

経済の中心チューリッヒには、弁護士が確かに多いのだが、このクライアントは、チューリッヒでも良く知られる弁護士、らしい。

彼らが日々の仕事でつぶさに眺める、虫眼鏡を使いたくなるような、ポイントをぐっと落とした法律文書の文字がヒント。その小さい文字からいかに大きな利益がもたらされるか、そのためにどれほどパッションを持って読んでいるかという諧謔を、CIとしてデザインしたという。こういうジョークが世界のスタンダードであるのかどうか、私には良く分からない。

原寸で見れば、十分に読むことのできる大きさだが、あえて解読ぎりぎりのQ数が選ばれている。

昨年のカンヌでブロンズ・ライオンを受賞。今年のクリオにもエントリーしていた。

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Title: ION EGLIN SMALL PRINTED DESIGN
Advertiser/Client: Ion Eglin Jurist Of Law
Product/Service: LAWYER
Design/Advertising Agency: RUF LANZ Zurich, SWITZERLAND
Creative Credits
Creative Director: Markus Ruf /Danielle Lanz
Art Director: Lorenz Clormann
Copywriter: Markus Ruf
Account Supervisor: Nicole Sommermeyer

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ミグロ美術館現代アート 反射するユートピア While bodies get mirrored- An Exhibition about Movement, Formalism and Space

1916年。トリスタン・ツァラは、チューリッヒでダダイズムを宣言した。美術史上、その後いくつかの大きな影響を受けてきているが、現在、この街は、世界の現代アートの重要な拠点のひとつとして確立されている。

その中でも、リーダーの役割を担っているのが、ミグロ美術館現代アートMigros Museum für Gegenwartskunst。

実際、現代アートだけを専門に扱う美術館は、ヨーロッパでも意外に少ないが、ミグロ美術館現代アートは、例えばパリのパレ・ド・トーキョーやロンドンのホワイトチャペル・アート・ギャラリーと並ぶ世界のアートシーンで常にユニークで質の高い企画展を発表する存在として知られている。

オープンは、1996年。ちょうど、この90年代半ばから現在に至るまで、世界中からアーティストがこの街に集まって来るという傾向が見られる。

ミグロ美術館現代アートは、ライオンのブランドマークでおなじみのスイスの古いビール工場をそっくり改造した建物のなかにある。また、このビルには、クンストハレ現代美術館 Kunsthalle Zürich を始め、 エヴァ・プレゼンフーバー Eva Presenhuber, ハウザー&ヴィルスHauser & Wirth, ピーター・キルシュマンPeter Kilchmann, ボブ・ヴァン・オルソー Bob van Orsouw といった、世界の名立たる現代アートのギャラリーが共存している。ミグロ美術館現代アートは、時として、これらのギャラリーと連動した活動を展開することもある。

ローヴェンブロイ・エリアと呼ばれるLöwenbrau-Areaこの周辺一帯には、ギャラリーが多く、またクリエイティブな仕事が集中している、チューリッヒでも最先端の情報を発信するエリアである。ミグロ美術館現代アートは、この地域においては、美術を学ぶ学生が卒業後もチューリッヒで制作活動を続けられるよう環境整備をしていると同時に、世界のアーティストと密接な関係を結びながら、よりスケールの大きな作品に取り組み、人々と交感していくプロセスを通じて、現代アートの歴史を作り続けることを目的としている。

パトロネージュするのは、スイス最大のリテイラー、ミグロ。スーパー、デパート、銀行、学校など、傘下には異業種が多様にある。創業者ゴットリープ・ドゥットワイラーGottlieb Duttweilerの波乱に満ちた、実にチャレンジングな生涯は有名であるが、彼自身がアバンギャルドな絵画を収集していたことは、系譜として記憶しておきたい。

ミグロ美術館現代アートでは、現在、20世紀思想を総ざらいして再構築したかのような実にパワフルな展覧会が開催されている。

世界的な現代作家13人が、ダンス、彫刻、ビデオ、インスタレーションなど、象徴言語の脈絡の中で、まったく異なる展開と多様なコンテンツの働きを煌めかせたグループ展 While bodies get mirrored- An Exhibition about Movement, Formalism and Space。

動きと空間の間に生じる緊張関係を大きなテーマとし、現代アートにおけるポスト・モダン・ダンスやその振り付けの影響に焦点を当てている。

また、もうひとつの中心テーマは、「演じること」の再プレゼンテーション。動きの記号、ダンサーの表現を様々な媒体を通じて展覧している。

初期のポスト・モダン・ダンスは、次のモダニズムへとブリッジする時期に「あらゆる動きはダンスであり、全ての人間はダンサーである」と解釈していた。

ポスト・モダン・ダンスにおける動きの形式表現の遺産は、現代アートに応用され、反映し、さらに発展している。とりわけ、ここ数年、若いアーティストの間で、この20世紀初めのアバンギャルドなムーブメントが再度取り上げられ、再発見され、興味が高まっているという大変面白い動きが起きている。

キュレーターのラファエル・ギガックスRaphael Gygaxのインタビューを聞いた。

「タイトルWhile bodies get mirroredは、一見、複雑な様相を示しているかもしれません。しかし、これは、なによりも大変詩的で、私たちが追求してみたかった3つの瞬間を映し出しているのです。フォーマリズム、ムーブメント、そして空間。作品は、それを映し出す、あるいは反射させる空間が必要とされます。ポスト・モダンアートにおいて、反射させることは、しばしば身体の細分化と密接な関係を持っています」。

館長ハイケ・ムンダー Heike Munderは、2001年に就任して以来、次々と斬新で挑戦的な企画を成功させてきた。

「パフォーマティブな活動を、長年に渡って提示してきました。ムーブメント、劇場的な表現形式。私たちは、今回グループ展として、それらすべてをこの空間に集合させました」。

会場一番奥、真っ赤な絨毯の上に70枚を超える鏡を杭のように構築した、ウィリアム・フォーサイスWilliam ForsytheのThe Defenders Part2が展示されている。この作品と絡む文脈が、展覧全体の作品から作品へと、まったく異質でありながらもget Mirroedというというコンセプトで符合している。

Martin Soto Climent The Swan Swoons in the Still of the Swirl 2010 Single-channel-videoprojection (color, sound), blinds, aluminum Dimensions variable/ Photo A.Burger,Zurich

会場に入って、まず私たちを出迎えるのは、このフォーサイスのDNAを汲み、その暗示とも受け取れるメキシコのマルティン・ソート・クリメントMrtin Soto Climentの、白鳥 The Swan Swoons in the Still of Swirl。スチールの彫刻と、それを踊らせる作家がスクリーンに流れる。

この導線を辿っていくと、アニミズムを連想させるアメリカのアバンギャルドのパイオニア、May Derenのダンス。

Maya Deren A Study in Choreography for Camera 1945 Single-channel video projection (16mm film transferred to DVD, b/w, no sound) 3 min. Loop

Maya Deren A Study in Choreography for Camera 1945 Single-channel video projection (16mm film transferred to DVD, b/w, no sound) 3 min. Loop

 

その先には、ヘンリー・ミラーの作品のパッサージュをベースに、彼の親密な女性のイメージを引用した、デリア・ゴンツァレツDelia Gonzalezのフィルム。シェークスピアの「真夏の夜の夢」に登場する妖精の王オベロンの黒い翼を身につけて、闇の奥から現れたようなダンサーが、ある種呪術的にさえ見える舞踏を踊る。

Delia Gonzalez In Remembrance… 2010 Single-channel video projection (16mm film transferred to DVD, color, sound) 12:50 min.

ハイケ・ムンダーの話を続けよう。

「現代の精神性は、リ・フォーマリズムとファンタジーの間で生きています。2つの重要なムーブメントは、形式が幾何学に対抗するものでありながら、しかし、同時に常にオーバーラップしているということなのです。ユートピアは、失われました。しかし、多くのアーティストが、ユートピアと交流しています。彼らは、非常に強い芸術の力でそれを取り戻しているのです」。

パウラ・オロヴスカPaulina OlowskaによるAlphabet Letters。

Paulina Olowska Pioneer Alphabet Letters 2005 Box with 26 cards, colored, 4 cards, b/w je 21 x 15 cm/ Photo A.Burger,Zurich

彫刻的なフィールドを拡大拡張しつつも、さらにムーブメントを凝固させようとロープを張り巡らす、ジュリアン・ゲーテJulian Goethe。

Julian Goethe: Kontakt, 2005, MDF wood, lightnings, Ca. 250 x 400 x 20 cm, © the artist, Photo A. Burger,Zurich

Julian Goethe: Kontakt, 2005, MDF wood, lightnings, Ca. 250 x 400 x 20 cm,


Julian Goethe Extended Version 2010 Rope, metal Grösse variabel/ Photo A.Burger,Zurich

Julian Goethe Extended Version 2010 Rope, metal Grösse variabel/ Photo A.Burger,Zurich

社会的、政治的アプローチをも意図する、アンナ・モルスカAnna Molska。

Anna Molska: Tanagram, 2006 – 2007, Single-channel video (b/w, sound), 5:10 min, © the artist

Anna Molska: Tanagram, 2006 – 2007, Single-channel video (b/w, sound), 5:10 min, © the artist

「彼らのアートの原点が、ユートピアのアイデアと手を取り合っていることがわかります」。

Anna Molska: Tanagram, 2006 – 2007, Single-channel video (b/w, sound), 5:10 min, © the artist

「20世紀初頭、文化人類学者、心理学者、社会学者は、身体やムーブメントの刻印は、精神文化によって与えられていると想定しました。この展覧会は、それらの影響と遺産のひとつの理想的な表現方法である。私は、そう考えています」。

数年前、ハイケ・ムンダーにインタビューする機会があったが、彼女はこの美術館の戦略でありミッションである オン ゴーイング アート プロセス on going art prosess について、以下のように解説した。

「アートは、常に社会とつながっています。世界にリンクして、外に向かって開かれたものです。ですから、政治にも、経済にも、歴史にもつながっているといえます。アートを人々や社会に問いかける。人々が考える、感じる、刺激される。あるいは、幸福な気分になる。それが、美術館に反映され、私たちは、また問いかける。その繰り返しは永遠に続きます」。

Anna Molska: Tanagram, 2006 – 2007, Single-channel video (b/w, sound), 5:10 min, © the artist

「美術館の活動が、地下に根を張っていくとイメージしてください。やがて、木になる。花が咲くかもしれない。広大な森ができるかもしれません。素敵だと思いませんか。それが、私の考える オン ゴーイング アート プロセスon going art prosessです」。

While bodies get mirroredは、オン ゴーイング アート プロセスの地下鉱脈に根を張り巡らして煌めいている、現時点での集大成のグループ展であると解釈できる。

この展覧会の提示するユートピアのなかで、私自身が反射を感じる奇妙な幸福感があった。

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While bodies get mirroredを構成するアーティスト

アネタ・モナ・チシャ Anetta Mona Chisa 1975 ルーマニア/ マヤ・デレンMaya Deren&nbsp 1917 – 1961 ウクライナ/ウィリアム・フォーサイス William Forsythe 1949 アメリカ / ジュリアン・ゲーテJulianGoethe 1966 ドイツ/デリア・ゴンツァレツDelia Gonzalez 1972 アメリカ/ バベット マンゴルト Babette Mangolte 1941 フランス /アンナ・モルスカAnna Molska 1983 ポーランド/ ケリー・ニッパー Kelly Nipper 1971 アメリカstyle/ポウリナ・オロウスカPaulina Olowska1976 ポーランド/ シルク・オットー・クナップ Silke Otto-Knapp 1970 ドイツ/マイ- テュ・ペレ Mai-Thu Perret 1976 スイス/ ハンナ・シュヴァルツ Hanna Schwarz 1975 ドイツ/ マルティン・ソトー・クリメント Martin Soto Climent 1977 メキシコ/ルチア・テュカソファLucia Tkácová 1977 スロバキア

5月30日まで

https://migrosmuseum.ch/

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