25歳。パリでカール・ラガーフェルドに見出されたことを契機に、急速に頭角を表し、スター写真家へと駆け上がっていった、ミッシェル・コント Michel Comte。
その華やかな経歴を眺めながら、スリリングでセクシーで、ぎりぎりの緊迫感がみなぎるいくつもの撮影エピソードが、オーバーラップする。
チューリッヒ生まれのコントは、04年に、ウォーター・ファウンデーション The MICHEL COMTE WATER FOUNDATIONを、この地に設立した。また、ライフワークとして、世界の紛争地帯からのフォトルポルタージュも並行させている。
スタイルを生みだしてもそこに留まることがなく、新たな手法と切り口を鮮やかに見せ続ける、天才。
ミッシェル・コント30年の仕事を、360度の視野で回顧し、次、を提示する大規模な展覧会が、チューリッヒのデザイン・ミュージアムでスタートした。
2010年1月3日まで、というロングランだ。
Photo: デザイン・ミュージアム チューリッヒ MUSEUM OF DESIGN ZURICH
MUSEUM FÜR GESTALTUNG ZÜRICH
“ミッシェル・コント 30年の軌跡” への1件のフィードバック
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私たちは、もう、夏の終わりをカウントダウンしている。
時間を間違えたかのような、5月の強烈な日差し。雨が続いて寒かった、7月。そして、忘れ物をしたのか、天も辻褄をあわせてくれているのか、一気に雲を追い払った、8月。
山の天気は、気まぐれだ。
この眩い風景が今度さらわれたら、きっと、秋。
「素晴らしいお天気だから、パーティを思いついたの」と、急なお誘いをいただいた。
週末の予定のなかった私たちは、そのアイデアに大賛成。
住宅街の一角に、好きなお花屋さんがある。プレゼントをするときは、ここ、と決めている。
今では、すっかり顔なじみになったけれど、実は、このお店、何度も車で前を通り過ぎながら、長いこと見過ごしていた。季節が変わり周囲が裸木になってから、ようやく人の出入りに気づいたのだ。
あまりにも街並みに溶け込んでいて、紹介でもされなければ、わからないようなお店。どこか、一見の者を避ける吐息が聞こえるような気もしていた。
石段を上がり、扉を開ける。
この界隈のスノッブで注文の多そうなヨーロッパ人が、何人かで大きな白い花束を見立てていた。
花々と木々があふれる室内には、岩石のテーブルが置かれ、枯れ枝や流木、古い壺が転がっている。天井から下がるランタンは、欲しいと言えば、譲っていただけるのかもしれない。
混ざってはいるが、南仏のテーストに近い。
今夜お会いするマダムに、似合いそうな色を見つけた。
アルト・ローザ Alt Rosa。
両手で抱えるほど大きな珠の西洋アジサイは、「過去の薔薇色」。退行するかのような、渋みのあるピンク。19世紀、ビクトリア朝以降、多くの女性を魅了してきた、優雅な伝説の色だ。
テラスから対岸の丘を指し、ヨットの白帆が浮かぶ湖を眺める間に、グラスがまわり、アぺロが始まる。教会の鐘がいっせいに響き渡り、明日が安息日であることを知らせる。
晩夏のディナーは、ゆるゆると寛いでいく、この開放感が心地よい。
メインを囲み、笑い声のあふれる時が過ぎ、やがて、それぞれが静かに感動しながら、星の瞬く夜空を仰ぐ。
アルト・ローザは、部屋の奥に佇んでいる。
“アルト・ローザ” への2件のフィードバック
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カテリーナ・フリシュ Katharina Fritsch。
彼女の手にかかった三次元のイメージは、新たな命が波打つ空間で、欲望と恐怖という人間の根源的な心理を揺さぶる。
新作は、奇妙な現代のエレジー。
ダイビングスーツを着た男は、おもちゃのように、タコの触手にからめとられてしまった。
Photo: チューリヒ美術館 Kunsthaus Zürich
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2カ月ほど前に、チューリッヒでは、ゲイパレードが開催された。各地でお祭りの多い、夏。もうひとつ、ユニークで大規模なフェスがある。
毎年、8月の第2土曜日に開かれる、ストリートパレード Street Parade。
ご本家はベルリンのラブパレードだったが、92年にチューリッヒで始まって以来、年々拡大し、今や、ヨーロッパ最大のテクノ&ダンスのパレードとして知られるようになった。
2004年には、なんと、100万人の来場者を記録。今年は、朝からの大雨が終日続き、寒さにたたられ、引き返した人や家から出ない人などもかなりいたようだ。それでも、この日のために、世界中から60万人が集まった。
ちなみに、チューリッヒの人口は、36万人。
今年のキャッチフレーズは、STILL HAVE A DREAM !
コミュニケーション統括のステファン エプリStefan Epliは、そのステートメントのなかで、マーティン ルサー キング Martin Luther Kingの「I have a dream」を引き、「これは、ストリートパレードが生まれるずっと以前の演説でしたが、18年たっても私たちはまだ同じゴールへと戦い続けています。(中略)ストリートパレードは、愛、平和、自由、そして寛容のためのデモンストレーションなのです」とアピール。時流を反映して、というところだろうか。
オペラ座近くから始まり、ここからチューリッヒ湖に沿って、27台のラブモビール Love Mobieles と呼ばれる度派手なトラックが動いて行く。これが、ストリートパレード名物、移動するステージだ。
スイス、日本、アメリカ、そして、ヨーロッパ各国から集合したカリスマDJが各モビールに乗り込み、アーティストやダンサーが叫んで、踊って、熱いライブを繰り広げる。
レイバー Raversと呼ばれる観客たちも、渾然一体となってモビールとモビールの間をつなぎ、同じく、叫びながら、踊りながら、大音響のなかを進んでいく。
湖対岸へ向かう手前、ハイライトのセンターステージがあるビュルクリ・プラッツ Bürkliplatzに近づくにつれて、クレイジーな興奮が大きく渦巻き、テンションがぐんぐん上がっていった。
普段、チューリッヒの若者を見ていると、礼儀正しく秩序だっているように思うのだが、とにかくこの日は海外勢と一緒になって、ハメを外す。街中いたるところで、朝までパーティが続いた。
ところで、ストリートパレードの見ものは、奇抜なファッション。いや、仮装、と言った方が正しいのだろう。
もっとも、日本のガールズファッションが、パリやミラノに続々と輸出されている昨今。ちょっとやそっとのことでは、日本人は驚かないだろうが、しかし、街中にこういう人々があふれている状態は、かなりヘンではないだろうか。
性別、年齢、職業など、あらゆるボーダーを超越している。老いも若きも、中年も。メタボかどうかなんて気にしない、というストレートなおおらかさには、思わず笑顔で応えてしまう。
カメラを向けると、ほとんど瞬時にポーズを取ってくれる。どこで練習しているのだろう。
一緒に写真を撮ったりして面白かったが、ハマると、クセになりそうだ。
もしかしたら、来年、このなかにいたりして。
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チューリッヒの街には今、いたるところに巨大な植木鉢が出現している。
初夏から始まったキャンペーン、ガルテンシティ チューリッヒ 2009 Gartencity Zürich。アートとデザイン、植物と自然、都市と環境の融合をテーマにした、チューリッヒ観光局によるユニークな企画だ。
植木鉢は、ガラス繊維強化ポリエステル。高さ150cm、直径120cm。内外から参加したアーティスト達が制作した。
映画「エイリアン」でおなじみのスイス人アーティスト、HRギガー HR Gigerや、ドイツのハンス・ラングナー Hans Langner。ミラノのブレラ国立美術学院 Accademia di Breraからは、生徒と教授による作品も見られる。
チューリッヒ空港から街の中心へ。特に、中央駅から始まるショッピング街、バーンホフ・ストラッセから金融の中枢、パラデ・プラッツまでは、ハイライトのひとつ。ここから、湖へ、リマト川にほど近い石畳の旧市街やオペラ座へと、人々を誘導するように作品が配置され、その数は街全体で優に300を超える。
夾竹桃、椰子、はなみずき、極楽鳥、もみじ、いちじく、トチの木・・・
30種類以上の植物が植えられ、通り過ぎるたびに異なる日々の変化も、4ヵ月という長期キャンペーンを飽きさせることがない。
一年の中で、最も美しいこの季節。色とりどりの花を咲かせて、街はすっかり不思議なガーデンになった。
登場するアートは、年ごとに変化しているが、オリジンは、1998年の牛、カウパレードに遡る。グラスファイバーで作った400頭の牛にアーティストが思い思いに色をつけ、それを街中に飾った。この牛のボディペインティング、予想を大きく超えて大変な評判になり、牛の数はキャンペーン中に800頭にもなったそうだ。
しかも、シカゴ、ニューヨーク、ヨーロッパ各地と世界中に拡大し、東京丸の内でも、昨年までに3回、牛が現れた。
その後、地元チューリッヒでは、牛からベンチ、テディベアへと変遷をたどり、今年の巨大植木鉢へ。
面白いことに、このイベントが始まった98年あたりは、チューリッヒが現代アートの拠点として注目され、世界中からアーティストが移り住み、活動するようになった時期とちょうど重なる。
街のマーケティングを考えた時、「牛」というブランド力と、波に乗ってきた現代アートの力を使うということは、多分、自然でさえあっただろう。
そもそも、チューリッヒは、ダダ発祥の地。前衛の土壌がある。
子どもから老人まで。すべての人に向けられたアートと植物から届くメッセージは、やさしい。
アートが距離をぐっと縮め、人に、社会に語りかけるフックとなって、街をダイナミックに広告する、ガルテンシティ チューリッヒ2009。
自然の豊かさ、身近さ。サステナブルな街として、チューリッヒのイメージを強化しようとする、より積極的な観光誘致を核に据えつつ、同時にこの街の持つ斬新な魅力を、世界に向けて打ち出すブランド戦略の展開だ。
チューリッヒには、日本のようなコンビニは、ない。国際都市でありながら、時間は東京の数倍ゆっくり流れている、と感じるだろう。
しかし、ここでもやはりiphoneは大ブームだし、携帯とインターネットの発達で、情報はどんどん個別化されている。
一方、コミュニケーションがよりパーソナルになっていく反面、それでも、人は肌や声の温かさが好きだし、時には、踊りの輪に入ってみたいとも思うものだろう。そんなちょっとした興奮や感動は、安らぎや幸福感と隣り合わせになっている。
仕事人が、きびきびと歩いている。芝生で日光浴する若者がいる。お隣りのおばあちゃんが、猫の話をしている。旅行者とすれ違う。
ありとあらゆるジャンルの人々が、街という装置を媒介として、同じ空気を共有体験をしていると考えると、コミュニケーションの未来に希望が見えてくるような気がする。
何だか、楽しい。
9月20日まで開催
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