3Dアートで伝えるもの

3.11から1ヵ月半ほどしてこの広告を見た。その頃、ダライ・ラマは、アメリカ訪問の経由地として降り立つはずだった日本に予定より長く滞在し、東京護国寺で祈り、語っていたと大分経ってから知った。

いきなり目の前に現れた広告のダライ・ラマは、アメリカにいる。連邦議会の広間。

中国の人権問題と言えばまずこの政治家が筆頭に登場する。ナンシー・ペロシNancy Pelosは、かつてブッシュ政権下でアメリカ議会最高の褒章「下院金綬褒章Congressional Gold Medal」をダライ・ラマに贈った。これは、ダライラマが米国大統領と公の場で同席した初めてのケースであったが、その授与の場で、師は、ペロシの手を犬猿の仲であるブッシュの手に重ねた、という世界を沸かしたハプニング。瞬間、もうひとつの歴史をつくった。
07年のことだ。

“Great celebrities and current affairs. An experience page after page”

ページをめくるごとに、どれもこれもクオリティのトップを競い合えるほどの写真が連続し、キレるフレーズが目に飛び込んでくる。そこからアクシデンタルにも、読者は想像を超えた経験をしていく、ということか。
そう言い切るだけの洗練された雑誌であるし、手に取る自分が確かに賢そうに見えるかもしれない。

いかにもスイスドイツ語圏らしいタイポグラフィの美しさ、デザインのすきっとしたインテリジェンス。

彫刻家のデッサンをシリーズ化した昨年のEYE TRACKINGでは、素描から彫刻へ、平面でありながら3次元へと思考を導いたクイズのようなエスプリがあった。

Eye-cathcher からExperience へ進化し、3Dであることにコンセプトをからませる。昨年のシリーズに比べるとちょっと理屈が勝ち過ぎている気がしないでもないが、このヴィジュアルを現代アートだと思えば納得もできるし、チューリッヒならば、こういうお3方の蝋人形がどこかのギャラリーにありそうでもある。

アート&カルチャーマガジンDuならではのひねりの効いたコミュニケーション。

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Advertised brand: DU Magazine
Advert titles: Dalai Lama
Headline: Great celebrities and current affairs. An experience page after page.
Advertising Agency: Euro RSCG Zurich, Switzerland
Creative Director: Axel Eckstein, Frank Bodin
Art Director: Christina Wellnhofer
Copywriter: Ivan Madeo
Graphics: Dominique Magnusson
Photograper/3D-Artist: Markus Graf, Martina Broennimann

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http://www.du-magazin.com/

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復活祭のたまごのトレンド

友達のアンヤの家に遊びに行った時、キッチンのカウンターに妙な色の卵があった。
「野鳥の卵よ」、と言われても信じそうな、緑やベージュのまだら模様、苔に包まれたピータンのような卵。それがセットになっている。
カラフルな染め卵を飾るのではなく、「今年はこれで行くの」、と彼女は言った。
環境先進国らしいトレンドなのかも知れない。

実は、私もまねをして同じ卵を買って、森から採って来た苔の上に飾ってみたのだが、これが、何だかこのまま置いておくと、不思議な生き物が生まれてくるような、かなりナチュラル急進系ぽいデコレーションになってしまった。
モダンアートには近づいたかもしれないが、イースターにはほど遠く、絶対こういう使い方ではないと確信したとはいうものの、道が見えなかった。あちこち移動させたうさぎやニワトリにも迷惑なことだった、と反省している。

イースターの休日は火曜日まであり、2週間ほどの休暇を取っている人も多い。
家でゆっくりしているからと、アンヤの家族に夕食に招かれた。
今年のイースターは、昨年より3週間遅い。
1年の季節が全てやってくるという4月。普通は、雨が降り、雪もたまに降り、大粒の雹がたたきつけてきたり、そうかと思うと急に晴れたり。油断のならない月なのだ。
ところが、どうしたことか、ここのところ初夏のような毎日で、昼間はとにかく暑かった。
お天気が良くなってくると、スイス人の週末は、庭やバルコニーでバーベキューということになる。公園や森でも火を熾し、肉やソーセージを焼く。
エントランスに、恐竜みたいな巨大卵と、あのスーパーで売っている苔むした卵がアレンジされていた。
なるほど、単体ではだめだったのだ、と少し腑に落ち犬と一緒に庭へ行くと、すでにアぺロが始まっていた。

プレゼンテーションプレートには、ホワイトチョコのうさぎとパステルカラーの小さな卵のチョコをデコレーションしてひとりずつに。
何の鳥だかわからない卵は、庭にあった枝や葉を使って大きなガラスの花入れに飾り、「ちょっと色が寂しかったのでキャンディ―をアクセントにしたんだけど、どうかしら」、と彼女は首を傾げる。

ベーコンをぐるぐる巻いた大きなポークの塊りが、目の前を通り過ぎてグリルにのせられる。
夕食を探す鳥たちが高い声で鳴き交いながら、時折木々の間に顔を出す。

そうか。この生活から生まれるデザインなのだ、とようやくわかり、私の卵案は消えていった。

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鎮魂 マーラー交響曲第9番の日

3月最後の日曜日。前夜からの雨がやまない。
急遽決定された、チューリッヒ歌劇場管弦楽団による東日本大震災チャリティ演奏会が、朝11時からチューリッヒ・トーンハレで開かれた。
普段それほどフォーマルではないマチネも、この日はダークスーツやシックなドレスの方が目に着いた。

開演間際に、舞台脇の扉から走り込んできたペレイラ総裁の顔は、少し蒼白く厳しい。哀悼の辞が続き、その最後に黒に着替えてステージに現れた。

優秀な日本人の音楽家が何人もいるが、今日のオーケストラは日本人以外の奏者で構成されたこと。休憩を挟まないこと。そして、演奏の最後に拍手をしないようにと身体を揺らしながら伝えると、短いスピーチを終えた。

この日の夜上演されるヴェルディの「フェルスタッフ Falstaff」を収録するために、偶然にもNHKのスタッフの方たちが訪れていたそうだ。

主席指揮者、ダニエル・ガッティ Daniele Gatti 。曲は、マーラーGustav Mahlerの最高傑作ともいわれる交響曲第9番。
第4楽章のアダージョは、大きく、ことのほかゆっくり。天に地に祈りつづけるかのような鎮魂が流れる。弦だけで演奏されるこの最終章が徐々にか細く消え入ると、ガッティは、ガクン、と頭を前に落とし指揮棒を下げたそのままの姿勢で止まってしまった。演奏者全員、指揮者を見守っている。

やがて、私たちも無言で席を立ち始めた。

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震災1ヵ月。

各地の教会で、学校で、大小のチャリティー・コンサートがほとんど毎週のように開かれている。

今日は、このトーンハレで、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、チューリッヒ室内管弦楽団、チューリッヒ歌劇場管弦楽団、ヴァイオリニストのユリア・フィッシャー Julia Fisher によるジョイントコンサートが開催された。指揮は、この3楽団をリードするに流石の重鎮、クリストフ・フォン・ドホナーニ Christoph von Dohnányi。

チケット収益は、スイスのNGOグリュックスケッテ Glückskette(幸運の首飾り)の日本支援へ義援金として届けられる。

お亡くなりになられた方々の御冥福を心よりお祈りいたします。

被災者の皆さま どうぞ一日も早く平穏な日常がとり戻せますよう、この地よりでき得る支援を継続させていきたいと思います。

https://www.glueckskette.ch/

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観光を開発する、という仕事

©Josef Stuecker

あるパーティーで、スイス政府観光局の紳士をご紹介いただいた。多分私だけではないと思うが、初対面のスイス人とこういう場でのスモールトークの合間のフックに、「それで、いったいいくつの言葉をお話になりますか」、というソフトな質問がある。

「ハイジャーマン、スイスジャーマン。フランス語はもちろん。イタリア語も必要ですね。ロマンシュ語ですか?まあ、わかります。スイスは多言語ですし、それがスイスらしさでもあるのですから、一応、このくらいは・・・」と続く。お仕事柄とは言え、その数、確か7つぐらいだった。

チューリッヒ中央駅から朝TGVに乗れば、お昼にはパリに到着している。ちょっとアルザスのワイン農家へ。家具を買いにドイツ国境まで。バーゲンだからミラノへ行きましょうよ、という声がかかることも珍しくはない。

スイスのような多文化の観光立国で、お隣の国フランスが自国のプロモートをする。それは、日本に暮らす人々へのアプローチと、対極にあるのではないだろうか。

その先端に立つ女性にインタビューする機会があった。
フランス観光開発機構スイス支局の局長代理、ステファニー・ボルジュ・ミュラーStéphanie Borge Mueller さん。

ニューヨーク駐在を経てチューリッヒに移られている。N.Y. とスイスのマーケットの一番大きな違い、それは、「車で、電車で、自転車で。あるいは、歩いて。週末に気軽にフランスへ行く人がたくさんいること」とおっしゃる。

それでは、ここではないどこか、というのは、どっち方面にあるのだろう。

面白いことに、特にインセンティブをかけなくても、スイス人の人気を高いポイントでキープしているのは、南仏ではなく、タヒチでもなく、フランスの北、ブルターニュ地方なのだそうだ。

私が知っているのは、ナントNantes、レンヌRennesという地名と世界遺産のモン=サン=ミッシェルぐらいだったが、膨大な写真から、大西洋の海岸線にそそり立つ岩石や宇宙から降りて来たような謎の巨石、ケルトの哀愁がひたひたと流れる家並みに目をとめていくうちに、何となく「スイス人が好き」という理由がわかるような気がしてきた。

ホテルやレストランはもちろん、体験する何もかもが特別で一流という、非常にセグメントされたスイスの富裕層へ向けた企画を位置付けながら、マスに向けては、2月よりキャラクターが登場し、各媒体で連動。
初めてフランスを訪ねる人々へ、あるいは、今までとは違うフランスを楽しみたい人々へ。パーソナルな疑問に答えながら案内役となり、大都市や田舎の魅力はもとより、フランス本土での海のリゾートやウェルネス、領土内のニューカレドニア、カリブなどのトロピカルな旅まで紹介していく。

ユニークなのは、スイスの習慣をフランスでも楽しむことができるようにと、山歩きや自転車ツアーをフランスの田園や山々で楽しむという切り口。
ありそうでなかった企画かもしれないが、その開発のヒントは、スイスドイツ語圏におけるブルターニュの大人気の理由を分析していくと、するすると導き出されるようにも思う。

写真、ピルミン・ロスリーPirmin Rösli 。現在発売中の「プレシャス」3月号、巻頭グラビア、世界4都市のワーキング・ウーマンが登場するLife is so precious ! に掲載されている。

https://www.france.fr/fr


 

 

 

 

 

 

https://precious.jp/category/precious-magazine

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クリストファー・オールの幻想  ハウザー&ヴィルス

Silent One, 2010 Oil on linen 35.7 x 30.5 cm / 14 x 12 in   ©Hauser & Wirth.

チューリッヒの現代アートの拠点、レーヴェンブロイ・エリアにあるLöwenbrau-Areaライオンマークの古いビール工場は、現在、2年間の大がかりな再開発に入っている。

ここには、ミグロ美術館現代アートMigros Museum für Gegenwartskunstを始め、クンストハレ現代美術館 Kunsthalle Zürich、 エヴァ・プレゼンフーバー Eva Presenhuber, ハウザー&ヴィルスHauser & Wirth, ピーター・キルシュマンPeter Kilchmann, ボブ・ヴァン・オルソー Bob van Orsouw といった、世界の名立たるギャラリーが共存していたが、昨秋、そのままそっくり全ギャラリーが移動した。しばらくの間、クライス9地区 Kreis 9にある ヒューバーテュス エクスビションズ Hubertus Exhibitionsで活動していく。

東京であれば、湾岸あたりへ行く感じ。夕暮れて、人影も少しまばらな方向へ向かう。あまり馴染みのない場所だったのでトラムを間違えてしまったが、友人が携帯で誘導してくれ無事到着。

この夜は、ミグロ美術館のオープニング・パーティー。すでに大分前に始まっていたので、外に出てくる人もいる。ビルの入り口には、美大生風の人々が集まり、冷たい風にあたりながら煙草をくゆらせている。

階段を上ると、右がミグロ美術館現代アート。左手に2つのギャラリーが並ぶ。

荒木経惟の新作を展示する、ボブ・ヴァン・オルソー Bob van Orsouw。流石に、いいコレクションを持っている。その隣りがハウザー&ヴィルスHauser & Wirth 、と続き、アート界のトップを切る超一流の贅沢さだ。
以前からオープニングの日は、他のギャラリーも観ることができたが、このビルは、各画廊がドアを開け放つとフロアが一体化する印象があって面白い。

不思議な絵を見た。
エントランスから、おいでおいでと、妙な光が誘いかけてくる。
スコットランドの作家、クリストファー・オール Christopher Orr。ずっと昔にどこかで会ったことがあるような絵画。でも、それは錯覚で、シュールや幻想絵画の系譜を辿りながら、この奇妙な現代作家の世界に入り込 んでみると、彼のイメージのオリジンは、あと1世紀ほど遡るとやがて気がつく。

オールは、イギリスのターナーJoseph Mallord William Turnerや同じ時代のドイツの風景画家      カスパー・ダーヴィト・フリードリヒCaspar David Friedrichのロマン主義的な表現に大きく影響を受けたといわれる。

廃墟なり暴風雨なり、崩れゆく風景。そのロマン主義特有の不安な美しさに共鳴しつつ、フィクションと構成主義を往復しながら、現実と幻想の境界を消してゆく、そういう仕事をするアーティスト。
何かを暗示し象徴もするが、しかしオールの持つ抽象性は、地球の奥で燃えるマグマのような胎動のエネルギーと幻とを行きつ戻りつ、現在と未来の物語に続いているかのようだ。

何層にも塗り重ねて描き出す質感と形象。あるいは、絵具をナイフでカリカリ削ぎ落し、キャンバスの下に浮かび上がらせる、謎の姿。

ここに展示された13点の新作は、ほとんどが0号から3号ぐらいと小さい。それらが、静寂の壁からぽつんぽつんと言葉を誘発し、絵画の提示する意味が世界のあらゆる角度から交差する。

午後9時の会場に、胸元をざわつかせるあの世でもこの世でもない虚構の風景を並列して、光と闇のリリシズムを放っている。

https://www.hauserwirth.com/

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