毎年12月が近づいてくると、今年のクリスマスは何色にしようかと考えだす。4本のキャンドルを立てるアドベントのデザイン、玄関のリース、そして皆が集まる部屋とテーブルのコーディネーション。
一度どこかで習って見ようと思ってスイス人の友達に尋ねたら、「そんな教室はないの・・・」と気の毒そうに言われてがっかりしたことがある。
子どものころから母親が作っているのを見たりお手伝いするうちに、何となく覚えていくもので、わざわざ人から教わるものではないのだそうだ。
健全な答えではある。
しっかりと組んだリースの土台はお店で売っているが、普段から玄関に飾っている木の枝や実は、森へ散歩に行ったときに探してくる。森のものは、森から運んではいけない。そういう約束も実際あるが、青々とした枝を切るのでなければ、許してもらおう。
市場で買ったモミの木の枝をひとかかえ。キャビネットの上に広げる。
部屋に森の匂いが流れてくる。
このコーディネーションでは、テーブルをクリスマスの森に見立てた。
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亜熱帯の国からスイスへ移ったのは、とんでもなく寒い冬だった。
その気温差、何と40度。ざっくり言うと、摂氏35度の南の島からマイナス5度!!の、どこからもアルプスが見えるこの山国へ飛んだ。
チューリッヒ湖が30年振りとかで凍った極寒の年で、とにかくとんでもないところへ来たものだと思った。
荷物がまだ海の上を移動している頃。サービスアパートメントの仮住まいで、どちらが言い出したのか忘れたが、「フォンデュしよう」ということになった。
日本の鍋物と同じように、スイスのフォンデュは、家庭ごとに違うレシピがある。
チーズの配合やワインの好み、さくらんぼのリカー、キルシュの使い方も「うちは、こうする」という流儀が代々それとなく伝わっているものだ。
デパ地下に行かなくても、近所のスーパーでもチーズはずらっと並んでいる。日本のチーズのお値段に躊躇することを思えば、比べ物にならないほどリーズナブル。
そうは言っても、おいしいチーズ・フォンデュを家で食べたい、という時は、電話で予約をしてチーズ屋さんへ行く。電話はしなくてもいいけれど、「あとで伺います」という挨拶のようなもの。
私たちの贔屓は、旧市街の老舗のチーズ屋さん。フラウ・ミュンスター Fraumünster (聖母教会)の広場にある、「ケース・フレネリー CHÄS VRENELI 」。(CHÄSは、ドイツ語のチーズKäse のスイスドイツ語)
石畳を横切って、サヴォイホテルのイタリアンレストラン「オルシーニ Orsini」の手前。青いドアを開けると、いつもダリオDarioさんがカウンターにいる。
スイスのチーズ屋さんには、お店ごとに秘密の配合でミックスしたフォンデュ用のチーズがある。
おなじみのモティエ・モティエもいいのだけれど、フレネリーのフォンデュ・ミックスはもうちょっと複雑で、飛びきりおいしい。我が家では、チューリッヒで一番、と言っている。
そうだ、今年はプレゼントしてみようかな、と前の前の冬に日本で出版された「フォンデュ・レシピ」を差し上げた。外国人が日本人にお寿司の本を作ったと見せるようなものなのか、いつもスイス人がかなり戸惑いながらも喜んでくれるとわかったので、専門家はどうなのだろうとお持ちした。
「えっ?日本にフォンデュの本があるの?そうなんだ。うれしいねえ」と目を細めてページをパラパラ。マネージャーのユルグ Jürg さんがちょうど裏から出ていらして「どうしたの?」と一緒に覗く。
「日本の食卓には、一度にいろいろな種類のおかずが並ぶんです。チーズがいくらおいしくても、日本人は、パンとじゃがいもだけだと退屈なので、他のものも合わせたりして・・・」と、私は口早に解説する。
つまり、フォンデュのお鍋のそばに、ブロッコリーやソーセージがどうしてあるのか、とスイス人は首をかしげるのだ。
「ふ~ん。なるほどねぇ。そうかぁ。だからこういうこと考えるんだね。これ、読めないけど、面白いよ」
ミュンスターホフ7番地 。この住所から、食通は「おいしいチーズ」を連想するという。
19世紀後半から続く「ケース・フレネリー」は、旧市街という場所柄にふさわしく昔ながらの店構えをしている。
しかし、実は、経営方針はかなりチャレンジングで、スイス、ヨーロッパだけでなく、注文があればスピーディ―に世界のどこであろうとチーズを届けるシステムを持つと知った。名立たるホテルはもちろん、15のエアラインでも採用されている。
これは、ワイン同様、スイスのチーズがあまり海外に輸出されていない事情を考えれば、とても果敢で柔軟なフットワークだと言える。
「ケース・フレネリー」は考える。
「チーズは、人間が作った最も古い食物です。幾千年も超えて、数え切れないほどのバラエティが発明され、そのどれもがユニークなフレーバーとテクスチャーを持っています。しかし、あまり知られていない地方の特産だったりするものもあります。私たちは、それらをきちんと評価し敬うべきであると信じているのです」
お店で扱うチーズ、およそ120種。そのうち70%はスイスチーズだが、エメンタール、グリュイエールといった、日本でも手に入るチーズのその種類の多さはさることながら、村ごとにあるウォッシュ系、クリーム系のチーズなどスイスでも珍しいものが、あれもこれも食べてみたいと、目移りするほどたくさん並んでいる。パッケージがまた手作り感いっぱいで楽しい。
「私たちのチーズは、いずれも、古くからのレシピで専門のチーズ職人が作ったものです」
歴史のバックグラウンドを持つスイスの村々を代表するチーズに混ざって、数は多くないが、これからの時代を担おうという若者が作ったチーズも置かれている。フレネリーのお眼鏡にかなったのだろう。
フレネリーを巡る情報ネットからということか。チューリッヒに観光で訪れて、帰りにはフレネリーでチーズを買って帰る人は、日本人を含めて少なくない。そのおいしさのファンになって、日本からメールや電話で注文してくる人々とは、丁寧に長いおつきあいをされていると伺った。
さて。チーズをいただいて帰らないと。
ここのフォンデュ・ミックスのレシピ。あとちょっとというところまで分かるのだけど、奥行きやフレーバーなど、いくつか疑問が残っていてなかなかリーチできない。
ダリオさんに誘導尋問をしかけたら、
「ダメですよ、内緒なんだから」
「もちろん、ヴァシュリンとグリュイエールは分かるんですけどね?もうひとつですよね?」
「mmm ・・・・・ ヴァシュリンは、フリブールのものですね。それと、アッペンツェラーが少し入ります」
ちょっとだけ、秘密がわかった。
協力:株式会社 ケース・フレネリー CHÄS VRENELI AG
https://chaes-vreneli.ch/
フォンデュ・レシピ
日東書院本社刊 1260円
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今年の春。チューリッヒのデザイン美術館でスイスのグラフィック100年の歴史を俯瞰した大変面白い展覧会があった。
アップするのが宿題になっていて、すみません。
それとは別にこのポスター。
いつ見ても、不思議で、久々に見たらやっぱり強烈なので、ご紹介したい。
日本でいえば牛乳協会。スイスミルクの1932年のポスターだ。
この年、ドイツではバウハウスがデッサウ Dessau からベルリンへ移り、すでにミース・ファン・デル・ローエ Mies van der Rohe が校長として指揮を執っていた。
スイスの現代美術は、今もベルリンとかなり交流があるが、グラフィックの歩みを振り返ると、デザインに大きく影響を受けていたことがわかる。時代を牽引した建築家らとともにバウハウスの思想がこの地で躍動していた。
多くの亡命者が暗躍跋扈していたチューリッヒの街に思いを馳せると、いつも私はドキドキしてくる。
JEDEM SEINE MILCH ひとりひとりに牛乳を。
近代へ向かう時代の空気が、ストレートに伝わってくる。
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このイラスト。どことなくキリコGiorgio de Chiricoの世界に似ていないだろうか。
昔、教科書で見た「通りの憂鬱 Mystery and Melancholy of a Street.」
タイトルを思い出せなくても、極端な遠近法と変調の不安感に記憶がある。
1918年。トリスタン・ツァラ Tristan Tzara がチューリッヒ・ダダを宣言したとき。旧市街のバーにキリコが一緒にいたわけではないけれど、二人はこの時期かなり親しかった。
帰る家に向かうのか、帰ることのできないところへ行ってしまうのか。
少女の回す輪が、自転車を連想させた。
真逆に引力が働く長い髪。宙に浮きそうな車輪。
Tailwind inclusive
電動自転車を買うと、こんな追い風がついてくるらしい。
ブランド力が加速されているかどうか、ちょっと不安、というのも戦略なのだろうか?
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Advertising Agency: Advico Young & Rubicam, Zurich, Switzerland
Creative Directors: Dominik Oberwiler, Martin Stulz
Art Director: Matthias Kadlubsky
Copywriter: Markus Rottmann
Photographer: Paolo Emmanuele
Retouching: Stephan Riederer, Pixelpolish
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湖沿いの隣町。細い石畳の路地に、いつも可愛らしい手作りの小物を並べているお店がある。可愛いらしいのだが、子どもっぽくないところがセンスの良さか。
あるお天気のいい日に、このお店を覗いた。
チョコレート屋さんにはいろんなポーズをしたうさぎが並び、薬局には卵を染める草木の粉が箱に入って売っている。
どこのデパートを見ても、どうも今年はパステルトーンが主流か、という感じだった。
さて、パステルの柔らかな色がうちにもいいかと、復活祭の小物を眺める。
この鶏は、真っ先に目についたが、その日は手書きの卵だけいただいて帰った。
迷ったら買えばいいのに、と思うものの、無駄なものを買わない、考えてから買うスイス人の習性の影響で、旅先以外は衝動買いにしばしば、待った、がかかるようになった。
鶏は、ひと晩悩んで、結局翌日買いに行った。
30代後半か。静かな眼をした女性は、ブロンドの髪をシニヨンにまとめている。きれいな人。
「昨日は、迷っていたの。でも、やっぱり、鶏いただきます。日本の友達のお嬢さんにお土産にしてもいいし」。
パキッとしない言い訳だわ、と思いつつ。
彼女は私を見つめて、「分かっていました。絶対戻っていらっしゃると思っていたわ」
幸せそうな猫や鳥。犬と羊。たくさんのうさぎが走り回る小さな店で。
何だか、おとぎ話のなかにいるみたいだった。
スイス人の誰かが作ったフエルトの鶏。彼女の友達か知り合いが作って、ここに並べることにしたのかもしれない。
もうすぐレディになりそうな友達のお嬢にあげるのは惜しくなり、今年ここにいる。
日曜日は、時々小雪。花吹雪。
ハッピー・イースター。
可愛らしい鶏。 見ているとなんだか楽しくなりますね。
季節ごとに、手作りの小物を並べているお店です。
この鶏を作った方。きっとやさしい女性ですね。