トラッキング・ハピネス ミルチャ・カントル展

ほうきを持ってゆっくり動き続ける女性の映像が、頭のどこかに引っかかったままになっていた。そのモチーフが、時々顔を出したり、消えてしまったり。
どうやら、このアーティストのトリックにはまっていたようだ。

ミルチャ・カントル Mircea Cantor。

私たちの日々の何気ないシーンにいつの間にか潜入してきて、無意識にパターン化している当たり前のことに、ふと、疑問や不安を持たせる。

日常的なありふれた光景が、日常を乱す。

トラッキング・ハピネス Tracking Happinessは、カントルがこの展覧会のために制作したフィルムのタイトルでもある。

真っ白な服を着て、彼女たちは、柔らかな砂の上を裸足で踊るように移動して行く。
目的は何だかよくわからない。夢の中を彷徨うように果てしなく歩き、足跡はほうきでさらさらと消されて行く。

妙に明るく、ざらついた光が空虚な空間を曝し出し、ここではない別の時限で、彼女たちは天使のイメージへとリンクする。

どこかに置き去りにされたり、消し去られたりしたものを追跡する。あるいは、その足跡を別の方法でなぞって行く。

コンピューターによるコミュニケーションや電気仕掛けの監視下にある、私たちの時代、と念を押し。彼自身の困惑でもあるという、電脳化してプライベートな情報が蓄積され、増殖、拡散していく世界に対して、違うリアリティを設置しようと試みる。

作品は、ビデオ、写真、オブジェ、インスタレーションなど、様々なメディアが使われている。また、新聞広告などのより社会に組み込まれた媒体も、カントルは表現手段のひとつにしている。

’77年、ルーマニア生まれ。現在はパリに在住。
ロンドンのカムデン・アーツ・センターとパリのポンピドーでのセンセーショナルな個展で、すっかりヨーロッパの話題をさらい、今回、スイスでは初めてのワンマンショーが企画された。

11月8日まで

Photo: チューリヒ美術館 Kunsthaus Zürich

https://www.kunsthaus.ch/

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