チューリッヒからバーゼルまで、直行で1時間弱。アートや時計のフェアでしばしば名前が登場するが、バーゼルは、中世の時代から学芸や文化の中心地として発達してきた古い都市だ。旧市街やライン川沿いに独特の優雅な趣きがある。
バーゼルの国鉄駅は、ネオバロックのファサードを持つ国境の駅。ドイツ、フランス、スイスのボーダーがここで接する。
駅からトラムに乗って、郊外のリーヘンRiehenへ。世界に美しい美術館はたくさんあるが、大きな池にゆったりと水を湛えた、このバイエラー財団美術館の静寂や気品は、美術を鑑賞するための心を穏やかに迎えてくれる。
世界的建築家レンゾ・ピアノ Renzo Pianoの作品。
バイエラーは、丁寧に収集されたコレクションの素晴らしさはもとより、ヨーロッパでも、極めて質の高い企画展を展開することで広く知られる。アート・バーゼルの会場で、毎年、必ず入口から右手、最初のブースを持つのがこの美術館だ。
年を越えて開催されている展覧会 ジェニー・ホルツァー Jenny Holzer。あらためて言うまでもなく、現代の最も有名な作家のひとり。90年のベネチア・ビエンナーレで金の獅子賞を受賞したが、この評価以降、彼女の社会性、政治性が強く、なおかつ詩的な言葉をあふれる波のように伝達していくという制作活動を、より大きなフィールドへと発展させていった。
1950年、アメリカ オハイオ州生まれ。LEDの電光掲示板でフレーズを流すなど、近年は、各都市でプロジェクトを組んで作品を作り上げ、しばしば街を媒体として表現する。
今回の企画展では、チューリッヒでは、旧市街リマト川を見下ろすリンデンホフLindenhofの丘の壁に。バーゼルでは、カテドラル、SBB駅構内、シティホールなど。石畳に、教会の聖母像に光のメッセージが走り続けた。
70年代後半のテキストを含め、80年代以降の彼女の全分野における主要作品で構成。とりわけ、ヨーロッパでは未発表だった作品を含め、近作にフォーカス。LEDのインスタレーションはもちろん、絵画、オブジェなどを展覧する、スイスでは初めての大規模なショーだ。
また、バイエラーならではの思考のしなやかさであるが、ホルツァーの作品と影響し合うという意味で、財団のコレクションから、ジャコメティ A. Giacometti、ピカソ P. Picasso、マレーヴィチ K. Malevich、ベーコン F. Baconといった作家の作品が選ばれ、インスタレーションから移動していく間に、あるいは、同時に、全く異質なアートにも会うことになる。
1月24日まで。
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