コーチ、という職業は、日本でどのぐらい認知されているだろうか。
羽生選手のコーチが何をする人かイメージできても、ビジネスの世界のコーチやメンターとなると、経営コンサルタントの仕事の一部のように捉えられているかもしれない。
最近舞い込んできたメールのなかに、アロマセラピーと並んで、「コーチングもいたします」というお誘いがあったが、こうなると自己啓発系の心理カウンセラーなどともごっちゃになって歪曲されているような気もしてくる。
電力機器、重工業の世界的リーディングカンパニーABBで長年ビジネスコンサルタントとして活躍してきたシモン・ペスタロッチさん。彼女は二人目のお子さんを出産後、自身の経験を生かして子育て中の母親をターゲットに「ママ・コーチング」というプログラムを開発し、ここ数年、その成果が話題を呼び、スイスで注目されている。
コンサルティングが、企業のなかで効率化を図り結果を出す経済活動であることに対して、人材開発に取り入れるコーチングは、ゴールに向けて最短の時間で成果があがるように、1対1の双方向のコミュニケーションを積み上げながら進んでいく。それは、クライアントのよりプライベートな領域に関わることになる。
コーチは、対等な立場からクライアントが質問に対して答えを見つけ自分で整理できるように導き、行動を継続して、一緒に目標達成へ向かっていく。
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一人目のお子さんを出産した当時、グローバルマネージャーとして頻繁に海外出張をこなしていた彼女は、それでも、家事育児をこなし、パーティには夫婦そろって出席するなど、ソーシャルライフも出産前と変わらずに楽しんでいた。
ちょうど会社の同僚や友人たちが初めての子どもを持った時期でもあり、どうしたらそんなに何もかもできるのか、そのコツを教えて欲しいと頼まれたことが「ママ・コーチング」を開発するきっかけだった。
ただし、スイスには、日本のワーキングウーマンと大きく違う働き方がある。週のうち、何日、何時間働くか、選ぶことができる。「100%働いているの?」「いいえ、今は60%よ」という会話をよく聞く。
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「ママ・コーチング」の基本は、ビジネスの世界のコーチングと同様、タイム・マネージメントにある。それを母親のワークライフバランスを目指すベースとして応用した。
一日にしなければいけないことをシンプルにオーガナイズし、効率よくこなせるようになれば、自分のために使えるスペアタイムが生まれる。そんな余裕が出てきたら、自分の外観を見直す。ヘアスタイルも、爪の手入れも、もちろんファッションも。
この段階で、どのクライアントにも、セクシーな下着を買うことを勧める。ランジェリーは、見せたい自分を意識するきっかけになる。
体型も、出産前に戻す。ジムへ行く時間がないなら、家でできるワークアウトのリンクを送る。心のバッテリーチャージのために、子どもを寝かしつけている間に、自分を高めることをする。例えば、もう一度本を読む習慣をつける、音楽を聞く・・・
自分の見え方にも、気持の持ちようにも少し自信を取り戻したら、次のステップとして夫との関係を見直す。
二人だけで過ごす時間を、最低週に2時間は作る。
「夢、恐れていること、心配事、何を相手にして欲しいのか・・・・たわいのないことでもいいのです。もう一度二人だけで過ごす時間が必要なのです」
スイスの離婚率がほぼ50%に達するという現状。学校で問題を持つ子どもの多くは、家庭環境にしばしば原因があること。カップルの数ほどバリエーションはあるものの、パートナーとの関係がうまくいっていなければ、子どもを健全に育てるのは難しい、その危機感を認識するべきだと説く。
母親自身がよりバランスの取れた女性へと成長していく。結局は、夫との関係をより良いものへと変えていくイニシアティブを持ち、家族のあり方を方向付けリードしていくのは女性なのだというのが、シモンさんの考え方の基盤にある。それによって、母親はキャリアを含めバランスのとれた生き方を楽しめるようになる。コーチングのゴールは、そこにある。
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「ママ・コーチング」は、5つのテーマから構成され、1テーマは、90分×5回でゴールを目指す。
クライアントの理解度、達成度、心の動きによって、必要であれば休みを入れながら進めていくため、全テーマを終了するまで、最短でも半年かかる。直接会う時間が取れない女性のためには、スカイプでのセッションを積極的に取り入れ、クライアントは、近隣諸国ドイツ語圏にも広がっている。
写真、ピルミン・ロスリーPirmin Rösli 。「プレシャス」11月号、巻頭グラビア、世界4都市のワーキング・ウーマンが登場するLife is so precious ! に掲載。
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