日本からは、猛暑のメールが飛んでくる。
今年の夏のチューリッヒは、涼しかった。
7月に、待ちわびていた真夏の陽射しがやって来た。バルコニーで夕食をとり、週末ともなれば茂みの向こうから遅くまで笑い声が響いていた。
しかし、残念ながら、一年で一番美しいはずの夏の日は長く続かず、突然コートを着るような肌寒い毎日。曇っているか、雨がしとしと降っているか。
急いでくれないと、夏至が来る。いつもご挨拶は、「夏は、ほんとうに来るのでしょうか」、だった。
だから、ときおり思い出したように夏の太陽が戻ってくると、これを逃すまいと、ささっと水着に着替えて湖へ降りてゆく。
読みかけの本、読むかもしれない本。何か思いつくかもしれないから、四角いポストイット。バナナに冷たい麦茶。サングラス。これが、必需品。
2週間前には、ピンクのレンゲの花が一面に咲いていたが、それが終わって、白い小菊が埋め尽くす。花の上に寝転ぶのはとても気が引け、少しだけずれて、大きな木の下にお気に入りのビーチタオルをばさっと広げる。
ここは、この地域のプライベートビーチなので、静けさが守られている。
晩夏の湖に、ヨットの白い帆がいくつも浮かぶ。時折、湖沿いの小さな街を結ぶ定期船が通ってゆく。
しばらくそんな光景を眺め、波の音を聞きながらうとうとしていたら、急に深く眠ったようだ。
ツン、ツン、ツン???
何だか、知らない感触。
夢の中で、痛かった。で、やっぱり痛いので跳び起きたのだが、それは、なんと、鴨。私の周りに小鴨が集まって、足の裏がよほど面白かったのか、嘴で突ついて遊んでいたのだった。
この春生まれて、夏の湖でお母さんと一緒に泳いでいる小鴨たちは、人なつこくて、いたずらもする。
苔色のぬめる石を踏みながら、ゆっくりと、水に入る。
鴨たちも、そして、この湖へ流れ込むリマト川からやって来た白鳥も、私のすぐそばで泳いでいる。
太陽を見上げる。
子どもたちが、飛び込み台から歓声をあげている。
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